事故物件住みます芸人・松原タニシさんと『縄紋』の著者・真梨幸子さんの話題は、江戸時代の古墳再利用説から、今、タニシさんが2軒も物件を借りているという沖縄へ。東京にも大阪にもない、そこにある文化と、古代が共通していることとは――。
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タニシさんは大田南畝の生まれ変わり?
真梨 今日は、ずっと心に引っ掛かっていた出来事をタニシさんにお話しして、厄を落さないとって(笑)。
松原 僕は大丈夫です。どんとこいよ、です(笑)。
真梨 タニシさん、ある意味、もう霊媒師になってる(笑)。そうそう、新刊『事故物件怪談 恐い間取り2』に大田南畝の話が出てきますね。“こんなマイナーな人が”って、びっくりしました。
松原 そうなんです。江戸時代の文人・狂歌師の。
真梨 私、タニシさんは大田南畝の生まれ変わりなんじゃないかと思うんです。南畝さんって表の歴史には絶対、出てこないような巷の不思議な話を書き留めている人で。
松原 エッセイストみたいな人なんですよね、江戸時代の。
真梨 まさに、タニシさんみたいな存在だったと思うんです。文章も達者ですし。地面の下に空洞があって、屋敷があるとか、ちょっと似たような感じじゃないですか。この……。
松原 江戸時代の浅間山大噴火のとき、生き埋めになった人が30年後に見つかって生きていたという「信州浅間嶽下奇談」ですね。
真梨 そう。実は南畝さんって空洞オタクなのかなと。
松原 空洞、わくわくしますよね。南畝は空洞オタクなんですか?
真梨 地下に何かがあったという噂を聞いたとか、そういうエッセイが多いんです。今、住んでいるところの近くに、昔、一橋家のお屋敷だった場所があって。偶然読んだ、村上春樹さんのエッセイに、その近くに何年か住んでいたという話があったんですけど、そこは幽霊がよく出るということで有名らしいんです。
松原 へぇー。
真梨 どうやら、その場所には地下牢があったらしくて。そこに幽霊が出がちだという。
松原 やっぱり地下なんですね。
真梨 私、ちょっと思ったんですけど、あのへんって古墳も多いから、それを再利用したんじゃないのかなと。
松原 なるほど。わざわざ掘ったわけではなくね。
真梨 『縄紋』に出て来る、小石川植物園の傍の公務員宿舎が建っている場所に古墳があったというのも、実はほんとの話で。
松原 本当の話、ばっかり入ってますね、この本。僕、2年前に本を出させてもらって、やっと校正者と呼ばれる方々の仕事がわかったんですよ。この小説、主人公が校正者でしょう。そういうところで読ませてもらったので、なお面白かった。校正者って原稿に書いてあること、すべて検証していくんですよね。
真梨 校正者の仕事は凄いんです。
松原 校正者の興梠がしていく事実確認や検証は、僕らが心霊スポット回って、“この現象はこれと関係あるんと違うか?”みたいなこととほぼ一緒で。それがもう面白くて。
沖縄のユタ文化から古代の不思議が見えてくる
真梨 今、借りている事故物件は何軒ですか?
松原 大阪1、東京1、沖縄2の4軒です。
真梨 タニシさん、急に沖縄にハマりましたよね。呼ばれちゃったんでしょうか。
松原 その感はありますね。
真梨 沖縄って、魅力的なんですか。
松原 事故物件って、地域性がそんなにないんです。地方だと孤独死、都会だと自殺が多いとかはあるんですけど、もっとバラエティ豊かであってほしいなと思ったとき、沖縄の本屋さんのイベントに行ったんです。そしたらお墓がめっちゃデカイですし、幽霊が見えるという人もやたらにおる。周りじゅうが“困ったらユタに頼むんです”みたいなことを言ってる。“なんや、この異国は?”と興味が湧いて。
真梨 昔、同僚に沖縄出身の子がいたんですけど、その子も何かにつけて、ユタのことを話してましたね。お抱えユタが各家庭にいるそうなんですけど、「昨日、お父さんから電話がかかってきて、ユタがこういう夢を見たから気をつけろって言われた」とか普通に言ってるんです。今日はあっちの方角に行っちゃいけないとか、平安貴族がしていたような風習が沖縄では今もリアルに残っている。
松原 不思議なのは、沖縄ではそれが当たり前ということなんですよね。みんなが疑いもせず、ユタの言うことを聞いている。で、ほんまにその通りになったりする。
真梨 そうなんですよ。
松原 そういうことを日常的にしていたら、ほんとにそうなるんかなって思うんです。縄文や古代には、シャーマンと呼ばれる人がいましたよね。神託でこうしなさいと言われ、その通りにすると、水害が治まるとかしていたんだろうなと。
真梨 そうじゃないと信じないですもんね。
松原 となると、そういう理屈じゃないことをやり続けて、それが成り立っていた古代の人たちというのは、やっぱり変な力を持っていたんでしょうね。ユタという文化や、霊感を当たり前のこととしているから、当たり前にテレパシーみたいな力を使えたりもする沖縄の人と同じようなものが、古代の人にも備わっていたんじゃないですかね。だから古墳とか、古代人の生活の跡である貝塚とか、そういう残り香のあるところで変なことが起きるというのは、なんか真実なのかなっていう気がするんです。
真梨 変なことが起きると言えば、私、行ってもいない場所で、よく姿を目撃されているんですよ。
松原 えっ?
(次回につづく)
(聞き手・文 河村道子)
和製ダ・ヴィンチ・コード『縄紋』
縄紋、と聞いて、「何それ?」と思ったあなた。
実は、あなたが欲しいマンションの価格も、日本人に糖尿病が多いのも、ヤンキー坐りの発祥も、神社に鳥居と参道があるのも、謎の病気が流行るのも、最近フェミニズムが台頭しているのも、隣りのあの人が消えたのも、殺人が起こったのも、ぜんぶ「縄紋」のせいかもしれません。
イヤミスの女王、真梨幸子さんの新刊『縄紋』発売記念特集です。