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和製ダ・ヴィンチ・コード『縄紋』

2020.07.30 公開 ポスト

【記念対談】第2回

心霊スポットと古墳と地下の関係松原タニシ(芸人)/真梨幸子

事故物件住みます芸人・松原タニシさんと『縄紋』の著者・真梨幸子さんの話題は、江戸時代の古墳再利用説から、今、タニシさんが2軒も物件を借りているという沖縄へ。東京にも大阪にもない、そこにある文化と、古代が共通していることとは――。

*   *   *

タニシさんは大田南畝の生まれ変わり?

真梨 今日は、ずっと心に引っ掛かっていた出来事をタニシさんにお話しして、厄を落さないとって(笑)。

松原 僕は大丈夫です。どんとこいよ、です(笑)。

真梨 タニシさん、ある意味、もう霊媒師になってる(笑)。そうそう、新刊『事故物件怪談 恐い間取り2』に大田南畝の話が出てきますね。“こんなマイナーな人が”って、びっくりしました。

松原 そうなんです。江戸時代の文人・狂歌師の。

真梨 私、タニシさんは大田南畝の生まれ変わりなんじゃないかと思うんです。南畝さんって表の歴史には絶対、出てこないような巷の不思議な話を書き留めている人で。

松原 エッセイストみたいな人なんですよね、江戸時代の。

真梨 まさに、タニシさんみたいな存在だったと思うんです。文章も達者ですし。地面の下に空洞があって、屋敷があるとか、ちょっと似たような感じじゃないですか。この……。

松原 江戸時代の浅間山大噴火のとき、生き埋めになった人が30年後に見つかって生きていたという「信州浅間嶽下奇談」ですね。

真梨 そう。実は南畝さんって空洞オタクなのかなと。

松原 空洞、わくわくしますよね。南畝は空洞オタクなんですか?

真梨 地下に何かがあったという噂を聞いたとか、そういうエッセイが多いんです。今、住んでいるところの近くに、昔、一橋家のお屋敷だった場所があって。偶然読んだ、村上春樹さんのエッセイに、その近くに何年か住んでいたという話があったんですけど、そこは幽霊がよく出るということで有名らしいんです。

松原 へぇー。

真梨 どうやら、その場所には地下牢があったらしくて。そこに幽霊が出がちだという。

松原 やっぱり地下なんですね。

真梨 私、ちょっと思ったんですけど、あのへんって古墳も多いから、それを再利用したんじゃないのかなと。

松原 なるほど。わざわざ掘ったわけではなくね。

真梨 『縄紋』に出て来る、小石川植物園の傍の公務員宿舎が建っている場所に古墳があったというのも、実はほんとの話で。

松原 本当の話、ばっかり入ってますね、この本。僕、2年前に本を出させてもらって、やっと校正者と呼ばれる方々の仕事がわかったんですよ。この小説、主人公が校正者でしょう。そういうところで読ませてもらったので、なお面白かった。校正者って原稿に書いてあること、すべて検証していくんですよね。

真梨 校正者の仕事は凄いんです。

松原 校正者の興梠がしていく事実確認や検証は、僕らが心霊スポット回って、“この現象はこれと関係あるんと違うか?”みたいなこととほぼ一緒で。それがもう面白くて。

沖縄のユタ文化から古代の不思議が見えてくる

真梨 今、借りている事故物件は何軒ですか?

松原 大阪1、東京1、沖縄2の4軒です。

真梨 タニシさん、急に沖縄にハマりましたよね。呼ばれちゃったんでしょうか。

松原 その感はありますね。

真梨 沖縄って、魅力的なんですか。

松原 事故物件って、地域性がそんなにないんです。地方だと孤独死、都会だと自殺が多いとかはあるんですけど、もっとバラエティ豊かであってほしいなと思ったとき、沖縄の本屋さんのイベントに行ったんです。そしたらお墓がめっちゃデカイですし、幽霊が見えるという人もやたらにおる。周りじゅうが“困ったらユタに頼むんです”みたいなことを言ってる。“なんや、この異国は?”と興味が湧いて。

真梨 昔、同僚に沖縄出身の子がいたんですけど、その子も何かにつけて、ユタのことを話してましたね。お抱えユタが各家庭にいるそうなんですけど、「昨日、お父さんから電話がかかってきて、ユタがこういう夢を見たから気をつけろって言われた」とか普通に言ってるんです。今日はあっちの方角に行っちゃいけないとか、平安貴族がしていたような風習が沖縄では今もリアルに残っている。

松原 不思議なのは、沖縄ではそれが当たり前ということなんですよね。みんなが疑いもせず、ユタの言うことを聞いている。で、ほんまにその通りになったりする。

真梨 そうなんですよ。

松原 そういうことを日常的にしていたら、ほんとにそうなるんかなって思うんです。縄文や古代には、シャーマンと呼ばれる人がいましたよね。神託でこうしなさいと言われ、その通りにすると、水害が治まるとかしていたんだろうなと。

真梨 そうじゃないと信じないですもんね。

松原 となると、そういう理屈じゃないことをやり続けて、それが成り立っていた古代の人たちというのは、やっぱり変な力を持っていたんでしょうね。ユタという文化や、霊感を当たり前のこととしているから、当たり前にテレパシーみたいな力を使えたりもする沖縄の人と同じようなものが、古代の人にも備わっていたんじゃないですかね。だから古墳とか、古代人の生活の跡である貝塚とか、そういう残り香のあるところで変なことが起きるというのは、なんか真実なのかなっていう気がするんです。

真梨 変なことが起きると言えば、私、行ってもいない場所で、よく姿を目撃されているんですよ。

松原 えっ?

(次回につづく)

(聞き手・文 河村道子)

(怖い話をしながらのお二人はとても真面目で、でもとても楽しそうでした​​​​​)

関連書籍

真梨幸子『縄紋』

縄紋時代、女は神であり、男たちは種馬、奴隷でした。 フリーの校正者・興梠に届いた自費出版の原稿。それは “ 縄「紋」時代 " に関する記述から始まる不可思議なものだった。読み進めていくうち、貝塚で発見された男女の遺体など、現在にも繋がる共通点が幾つも現れて.....。この著者の正体は誰なのか、「縄紋黙示録」に隠されているメッセージとは。やがて興梠たちの身辺でも異変が起こり始めーー。多くの文豪たちが暮らし、今も有名学区が犇めく東京・文京区を舞台に、過去と現代、そして未来が絡み合う驚天動地の大長編。これは小説か予言なのか。 世界まるごと大どんでん返し!

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和製ダ・ヴィンチ・コード『縄紋』

縄紋、と聞いて、「何それ?」と思ったあなた。

実は、あなたが欲しいマンションの価格も、日本人に糖尿病が多いのも、ヤンキー坐りの発祥も、神社に鳥居と参道があるのも、謎の病気が流行るのも、最近フェミニズムが台頭しているのも、隣りのあの人が消えたのも、殺人が起こったのも、ぜんぶ「縄紋」のせいかもしれません。

イヤミスの女王、真梨幸子さんの新刊『縄紋』発売記念特集です。

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松原タニシ 芸人

1982年、兵庫県神戸市生まれ。松竹芸能所属のピン芸人。現在は「事故物件住みます芸人」として活動。2012年よりテレビ番組「北野誠のおまえら行くな。」の企画により大阪で事故物件に住みはじめ、これまで大阪、千葉、東京、沖縄など10軒の事故物件に住む。国内・国外500以上の心霊スポットを巡り、インターネット配信も不定期に実施。事故物件で起きる不思議な話を中心に怪談イベントや怪談企画の番組など多数出演する。ラジオ関西「松原タニシの生きる」、CBCラジオ「北野誠のズバリ」、YouTube・ニコニコ生放送「おちゅーんLIVE!」などレギュラー出演中。最新刊は公開中の映画『事故物件 恐い間取り2』(二見書房)。

真梨幸子

一九六四年宮崎県生まれ。多摩芸術学園映画科卒業。二〇〇五年『孤虫症』で第32回メフィスト賞を受賞しデビュー。『殺人鬼フジコの衝動』の文庫が累計50万部を超える大ヒットに。一躍”イヤミス“の旗手となる。著書は『人生相談。』『あの女』『祝言島』など多数。

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