“私、行ってもいない場所で、よく姿を目撃されているんです” “えっ?”――対談第2回のラストで、真梨さんが放った衝撃発言。その奇妙な現象を生みだしているのは、どうやら『縄紋』にも多々登場してくるクセモノ揃いの女性たちの行動とも重なっているようで……。
* * *
引っこ抜かれた生き霊
真梨 なんか私、生霊、飛ばしてるみたいなんです。
松原 飛ばしてるんですか?
真梨 行ったこともない、その時間にはいない場所でよく目撃されるんです。若い頃は、本当にそういう目撃証言が多くて、以前もお話しした病院跡地に建てられた郊外のマンションに住んでいたとき、友人が泊まりに来て、“あなた、夜中に突然、起き出したけど、どうしたの?”って言われたのも、あれ、生霊だったんじゃないかなって気がするんです。というのもその人とは、あれから縁が切れてしまったんです。
松原 そうなんですか!?
真梨 もしかしたら、相手は、無意識のうちに私に対してよくない感情を持っていたんじゃないかと。私の生霊を見たという人とは大体そのあと、縁が切れるんです。
松原 何それ、面白い。
真梨 だから私が生霊飛ばしたというより、私に対して無意識のうちにマイナスの感情を抱いている人が、私の生霊を見ちゃうんじゃないかなと。今思えば、生霊を見たという人に限って、その人が私の悪口を言っていたという噂を後から聞くんですよね。
松原 悪口を言った罪悪感、黒い感情が、真梨さんの生霊を呼び寄せちゃうってことなんでしょうかね。
真梨 そういうものがきっと生霊を呼び出すんですよ。私が飛ばすというよりも。
松原 引っこ抜かれているみたいな? それ、面白いなぁ、新しい説ですね。でも、なんでそんなに憎まれるんですか? ジェラシーとか、そういうことなのかもしれないですね。
真梨 そうですね。ほんと、女のジェラシーって凄くてですね……。タニシさんの借りた事故物件って、かつての住民は女性が多かったですか?
松原 半々やけど、何か起きやすいのは、住んでた方が女性の方ですね。男性の場合はそんなに大したことなくて。
真梨 やっぱり女性ですよね。幽霊っていったら、昔から女性。でもね、それも男女平等じゃないってことで、“けしからん!”みたいなこと言う人もいるんです。
霊界にも忍び寄るフェミニズム
松原 え、幽霊の男女平等? それって、フェミニズムなんですか?
真梨 女性ばっかり幽霊にするのは女性軽視だと。でもね、歴史的に見ると、やっぱり幽霊は女性の方が多いし、祟りもヘビーです。
松原 そうでしょう。男なんか、矢が刺さったまま、のたのた落ち武者が出てきたり、まだ戦争が終わってないと思って、兵隊が壁すり抜けるとかだけです。なんもせぇへん、男は(笑)。
真梨 男性って死んだことを気付かずに、ずっと同じ行動をするんですかね。
松原 死んでも休まらへんのが多いですね、男性は。
真梨 女性の方がアクティブ?
松原 そうですね。それと、ちゃんと目的を持って、死んでるというか。男って、しゃあなしに死ぬみたいなのが多いんです。借金、こさえたからとか。
真梨 たしかに女性の方が恨みつらみを抱いたまま、死にがちかもしれません。たとえば、落ち武者がワサワサ現れるというスポットに行っても、祟りが現れるということがないじゃないですか。ちょっと脅かして終わり、みたいな。女性の幽霊が現れるという場所に行くと、明らかに祟りのようなものがある。
松原 これってもう性質ですよね。だから女性が幽霊になっている話が多いというのは、差別ではなく区別。
真梨 女はね、死んでも怖いけど、生きてるうちも怖いんですよ。笑
いいジャンルをお互い見つけました
松原 そうそう。生霊を飛ばす女性同士のジェラシーの話、聞きたい(笑)。僕、女性のそういうのって、よくわからないんですよ。
真梨 女友だち同士のそれって凄いんです。たとえば3、4人でずっと遊んでいたりするじゃないですか。そうすると私はどういうわけか、中心になりがちだったんです、昔から。気が付くと、取り合いが始まっているみたいな。自分で言うのも恥ずかしいんですけど。
松原 へぇ。
真梨 大昔の話なんですが。私が学生の頃、深夜に電話かかってきたことがあって。“真梨さん、私のこと、好きよね?”って。“どうしたの?”って聞いたら、同じグループの人に、“真梨さんはあなたのことが好きじゃない。だからもう近づかないで”みたいなことを言われたんですって。
松原 うわぁ……。
真梨 で、その電話をかけてきた人が、後に私の生霊を見るんです。
松原 自分の側にしたいんですね。
真梨 そう、独占欲。多分、女性の嫉妬って、好きだから嫉妬するというより、憎しみも入っているんです。これはね、男性にはわからないと思う。
松原 わからない(笑)。
真梨 異性を挟んだ三角関係より酷いです、女性同士の関係は。私が女性のドロドロしたものばかり書きがちなのは、書いても、書いても、それが尽きることはないから。
松原 いいジャンルですよね。
真梨 事故物件と同じです。お互い、いいジャンルを見つけましたね(笑)。尽きないんですよね、書くことが。泉のように。
松原 どこか親和性もありますね、女の嫉妬と事故物件(笑)。
(聞き手・文 河村道子)
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