東日本大震災や熊本地震など、大きな地震が起こるたび、これまでの悲惨な体験から学び取った知恵がまったく活かされず、同じことを繰り返している日本。
実際に被災した経験を持つ著者は「災害に直面して100%の生存確率はない」とおっしゃっています。ただそのような中でも、発災時にどんな行動をとれば少しでも生存確率が高くなるか、書籍『震度7の生存確率』には巨大地震を生き残るために必要な知識が詰まっています。
近い将来の発生が確実視されている首都直下地震と南海トラフ地震。発災の瞬間にひとりひとりが何をすべきか、本書から抜粋して紹介します。
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発災の瞬間の基本姿勢 ゴブリン・ポーズ
震度7の強い揺れの瞬間にとるべき基本行動は、転倒したり飛ばされたりしないようにしゃがみ込むことです。書籍の第1章で紹介しているとおりです。
私たちが提唱する災害時にしゃがみ込む基本姿勢は、ゴブリン・ポーズです。ゴブリンとは英語で鬼の意味です。頭に乗せた拳が鬼の角のように見えるのでゴブリン・ポーズと名づけています。
ゴブリン・ポーズは、イラストのとおり。
(1) 片膝をついてしゃがみ、
(2) 後頭部に握りしめた両手の拳をしっかりと乗せ、
(3) 顔を両腕で挟み、
(4) あごを引いて完成です。
災害時の姿勢はこれまでにいろいろと提唱されていますが、私たちはさまざまな角度から発災の瞬間の危険を検討し、このポーズを開発しました。私たちがこのポーズを推奨している理由は、発災時の危機に直面した時に最も身体ダメージを軽減できるだけでなく、次の行動に移りやすいからです。
何度も繰り返しになりますが、震度7の揺れでは立っていることはできません。激しい揺れのために転倒してしまうことがあります。転倒した体勢は、落下物や倒壊物に対して無防備です。家具や建物が落ちてきてケガをするだけでなく、下敷きになって自力で抜け出せなくなると書籍の第2章で紹介しているクラッシュ症候群に陥り命を落とす危険性があります。そのため私たちは、まず「倒れない」体勢を保つことを優先順位の1番目にあげています。
ゴブリン・ポーズのステップ(1)は片膝をついてしゃがむことです。この体勢をとると、地面や床を3点で支える体勢になります。小学校の算数の時間に習ったと思いますが、平面は3点で決まり安定します。カメラの三脚も3本脚です。
片膝をつく姿勢は体勢を安定させるだけでなく、体の移動を容易にします。室内でタンスなどの家具が倒れてきた時に、このポーズであれば、瞬時に飛び跳ねて避けることができます。試してみてください。最低限の距離をすばやく動くことができます。
体を安定した体勢に保ちつつ移動を可能にできる体勢がゴブリン・ポーズです。単にしゃがみ込むと簡単に後ろに倒れてしまいますし、すばやく移動することもできません。仰向けに倒れて倒壊物が体の上に落ちてきたら内臓破裂です。後ろに倒れやすいので、こちらも試して違いを確認してみてください。
次にステップ(2)の後頭部を守る動作です。実は「避難時のポーズをとってください」とお願いすると、ほとんどの方が両手の指を組んで手を頭頂部に乗せるポーズをします。指を組んで手を平らに乗せるのと、私たちの推奨する拳を握って鬼のように後頭部に乗せるのでは、頭上からの衝撃を軽減する効果に大きな差があります。
手を平らに乗せるポーズでは、組んだ手が頭上からの落下物のクッションになりません。ほぼ直撃で衝撃が脳に伝わってしまいます。一方、ゴブリン・ポーズは、頭上からの落下物に対して、拳をクッションにします。拳をクッションにする理由は、落下物の脳への衝撃を拳の骨が折れることによって和らげるためです。頭部の損傷は命に直結しますし、脳震とうで動けなくなると自力移動ができなくなるので生存確率が低下します。これを避けるためには、とても痛いとは思いますが、拳の骨折を覚悟します。
ステップ(3)の脇を締める動作によって拳が後頭部と密着し、さらにステップ(4)のあごを引く動作に自然とつながります。
最後のステップ(4)であごを引く理由は、落下物が万一頭上に落ちた場合に頸椎(けいつい)への衝撃を和らげるためです。頸椎が骨折すると即死もありえるような、人間の体の中でも命にかかわる重大な部位です。衝撃に耐えられるよう、しっかりとあごを引きましょう。
ゴブリン・ポーズで、発災時に見舞われる、
・倒壊物の下敷きによる内臓損傷、圧死・外傷性ショックの危険
・頭上からの落下物の直撃による頭部損傷、頸部損傷
を相当程度軽減でき、
・次の行動に移るのを容易にする
ことが可能になります。
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その他、震災時の有用な知識が詰まった書籍『震度7の生存確率』をぜひご一読ください。
震度7の生存確率
東日本大震災や熊本地震など、大きな地震が起こるたび、これまでの悲惨な体験から学び取った知恵がまったく活かされず、同じことを繰り返している日本。
実際に被災した経験を持つ著者は「災害に直面して100%の生存確率はない」とおっしゃっています。ただそのような中でも、発災時にどんな行動をとれば少しでも生存確率が高くなるか、『震度7の生存確率』には巨大地震を生き残るために必要な知識が詰まっています。
近い将来の発生が確実視されている首都直下地震と南海トラフ地震、発災の瞬間にひとりひとりが何をすべきか、本書から抜粋して紹介します。