東日本大震災や熊本地震など、大きな地震が起こるたび、これまでの悲惨な体験から学び取った知恵がまったく活かされず、同じことを繰り返している日本。
実際に被災した経験を持つ著者は「災害に直面して100%の生存確率はない」とおっしゃっています。ただそのような中でも、発災時にどんな行動をとれば少しでも生存確率が高くなるか、書籍『震度7の生存確率』には巨大地震を生き残るために必要な知識が詰まっています。
近い将来の発生が確実視されている首都直下地震と南海トラフ地震。発災の瞬間にひとりひとりが何をすべきか、本書から抜粋して紹介します。
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オフィスで震度7に直面した場合、机の下に隠れるべきか
民間企業のオフィスは、地震に対する備えが学校とまったく違います。旧耐震基準の建物が多いだけでなく、天井や照明器具などの非構造部材の耐震化がどの程度進んでいるのかさえ正確にはわからない状況です。オフィス家具の耐震化については一般社団法人日本オフィス家具協会が推進していますし、窓ガラスの飛散防止については日本ウィンドウ・フィルム工業会が規格を定めて取り組んでいます。
あなたが勤務するオフィスは、こうした団体が提唱している基準を満たしているでしょうか。それぞれの会社によって状況は千差万別でしょう。しかし、私たちは、あなたがオフィスで震度7の地震に直面した場合、基本的には机の下に隠れないことを推奨します。
あなたの勤務先のオフィスの安全性を測る一番の基準は、建物倒壊の可能性です。目安は1981年です。この年の6月に耐震基準(建築基準法施行令)が改正されましたので、新耐震基準になってから建築された建物かどうか確認してください。
建物が倒壊する危険性は、阪神・淡路大震災の場合、1981年以前に建築された753棟のうち245棟(32.5%)が倒壊または崩壊、大破が245棟(32.5%)と、約3分の2が大きな被害を受けました。小破以下の建物は105棟にとどまりました。一方、1982年以降に建築された103棟のうち倒壊または崩壊した建物は15%、小破以下の建物は29棟でした。
旧耐震基準の建物は、倒壊・崩壊・大破の危険性が高いことは明らかです。倒壊・崩壊・大破の場合、そもそも机の下に隠れても机ごと下敷きになり、助かりません。したがって、机の下に隠れるべきではありません。旧耐震基準で建てられたオフィスで勤務している場合、机の下に隠れずに柱の近くでゴブリン・ポーズをとるべきです。なぜ、柱の近くなのか、その理由は次項で説明しますが、新耐震基準であれば机の下に隠れるべきでしょうか。この判断は難しいのですが、机の下に隠れないことを推奨します。
何度も繰り返しになりますが、震度7の激しい揺れに襲われた時のオフィスは非常に危険な状態になります。固定されていない机や椅子は飛び交い、コピー機も激しく動いてぶつかってくる、キャビネットも倒れてくる危険があります。
天井や照明などの落下物、オフィス家具の転倒の下敷きなどを避けるため机の下に隠れることは有効ですが、震度7になると机の下に隠れても机と一緒に飛ばされる危険は学校と同じです。机の下に隠れて机と一緒に飛ばされてケガをする危険性を考慮すると、自分のオフィスで一番安全な場所(三角形の空間)を確認しておき、そこで揺れが収まるまでゴブリン・ポーズでしゃがんでいるほうが危険度は低いと判断されます。
オフィス家具・備品類の耐震化(固定)をしているかの確認も重要です。日頃からより安全なオフィスに整えておく必要性は言うまでもないでしょう。
〔危険性チェック〕
・ビル倒壊
1981年が目安(6月1日 建築基準法施行令改正)
・コピー機
フロア固定型の対策キットで固定しているか(フロア固定型は震度7に対応)
・キャビネットなど
オフィス家具を正しく固定しているか(オフィスの壁はパーテーションなど造作物の場合があり、壁面固定をしていても強度不足になるため床固定が必要な場合がある)
・キャビネットなどの上にものを置いていないか
三角形の空間
アメリカン・レスキュー・チーム・インターナショナル隊長のダグラス・コップ氏は、世界60カ国875軒の倒壊した建物にもぐり込んで救助活動をしてきたこの分野のエキスパートです。コップ氏は、地震の際の最も安全な場所は「三角に空く隙間」と言っています。すべての大きな被災地の現場で、生存者を目撃したのが三角形の空間だったそうです。
仲西は、自らの被災体験から三角形の空間は生存確率を高めるために有効だと確信していたことから、私たちは建物倒壊や家具の転倒から身を守るためのコップ氏の三角形空間理論を推奨しています。こうしたことから、私たちは発災の瞬間にとるべき基本行動として「三角形の空間ができそうな場所に身を寄せ、ゴブリン・ポーズをとること」を提唱しています。
それでは、実際に三角形の空間ができそうな場所とはどのような場所でしょうか。コップ氏の解説では、「何か頑丈なものの近く」になります。天井が崩れてきた時にも頑丈なものの近くにいれば三角形が生まれる可能性が高くなります。
ベッドで就寝中に地震が起こった時のとっさの行動は、「飛び起きてベッドの下にもぐり込む」ではなく、「ベッドの脇に寝転ぶこと」になります。ベッドと倒れてきた家具や屋根材の間に三角形の空間ができる可能性が高いからです。ベッドの下はダメです。ベッドが倒壊物の重さに耐えられないとベッドごと潰されてしまうからです。
屋内では柱の近くになります。書籍の第1章の質問1です。柱は建物を支える役割を担っているために強度が高く、三角形の空間が生まれやすい場所です。自宅や職場など、長い時間を過ごす場所では、あらかじめ三角形の空間が生まれやすい場所を確認しておいてください。
車に乗っていた場合や近くに車がある場合、ボンネット付近(フロント・タイヤの中心から少し後ろ)が三角形の空間が生まれる可能性の高い部分になります。書籍の第1章の質問11で触れましたが、車の中で構造的に最も強い部分がエンジン周辺部だからです。車から降りてこの付近でゴブリン・ポーズをとることで三角形の空間に収まり、倒壊物から身を守れる可能性が高くなります。
震度7の生存確率
東日本大震災や熊本地震など、大きな地震が起こるたび、これまでの悲惨な体験から学び取った知恵がまったく活かされず、同じことを繰り返している日本。
実際に被災した経験を持つ著者は「災害に直面して100%の生存確率はない」とおっしゃっています。ただそのような中でも、発災時にどんな行動をとれば少しでも生存確率が高くなるか、『震度7の生存確率』には巨大地震を生き残るために必要な知識が詰まっています。
近い将来の発生が確実視されている首都直下地震と南海トラフ地震、発災の瞬間にひとりひとりが何をすべきか、本書から抜粋して紹介します。