裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ…と思ったら大間違い。
人を裁くという重責を担っているからこそ、ときには厳しく温かく、人間として被告人に、被害者に、そして社会に語りかける場面も。
法廷での個性あふれる裁判官の肉声を集めた幻冬舎新書『裁判官の爆笑お言葉集』から、特に考えさせられる部分を抜粋しました。
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「全地球」か「ポケットティッシュ」か
交通事故裁判での、被害者の命の重みは、駅前で配られるポケットティッシュのように軽い。遺族の悲嘆に比して、加害者はあまりにも過保護である。命の尊さに、法が無慈悲であってはならない。
飲酒運転と赤信号無視によって発生した交通死亡事故で、被告人に懲役3年の実刑判決を言い渡して。
京都地裁 藤田清臣(きよおみ)裁判官
当時55歳 1996. 11[理由]
親子水入らずで、一緒に銭湯へ行った帰り道。「お母さん、先に行ってアイス買ってくるね」……。母の目の前で突然、幸せな日常が砕け散りました。警察で「お棺に入れてあげてください」と渡された茶封筒には、路上に散った息子の骨の破片が入っていたそうです。
戦後、最高裁が発足して間もなく、ある大法廷判決の理由で「生命は尊貴である。一人の生命は、全地球よりも重い」と宣言されたことがありました。藤田判事は、全地球より重いはずの被害者の生命があまりに軽んじられている交通事故裁判への憤りを、抑えきれなかったのでしょう。それにしても、なぜポケットティッシュ。判決文を考えている最中に、駅前でもらって、「なんて軽いんだ!」とビックリなさったのでしょうか。
この判決が画期的だったのは、ユニークな表現だけではありません。検察官の求刑は懲役2年6カ月。なのに判決は懲役3年。わが国の刑事裁判で非常に珍しい「求刑超え判決」です。
裁判官の量刑が検察官の求刑を上回ることを、法律は特に禁じていません。ただ、そんな判決を言い渡されたら、弁護人はもとより、検察官も立場がないかもしれませんね。
藤田判事は「一裁判官としての思いの丈は判決の中に込めた。そこから酌みとってほしい」という言葉を残すだけで、今は多くを語りません。