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裁判官のお言葉集シリーズ

2020.09.06 公開 ポスト

飲酒運転での死亡事故に異例の求刑超え判決「加害者はあまりにも過保護である」長嶺超輝

裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ…と思ったら大間違い。

人を裁くという重責を担っているからこそ、ときには厳しく温かく、人間として被告人に、被害者に、そして社会に語りかける場面も。

法廷での個性あふれる裁判官の肉声を集めた幻冬舎新書『裁判官の爆笑お言葉集』から、特に考えさせられる部分を抜粋しました。

*   *   *

「全地球」か「ポケットティッシュ」か

交通事故裁判での、被害者の命の重みは、駅前で配られるポケットティッシュのように軽い。遺族の悲嘆に比して、加害者はあまりにも過保護である。命の尊さに、法が無慈悲であってはならない。

飲酒運転と赤信号無視によって発生した交通死亡事故で、被告人に懲役3年の実刑判決を言い渡して。

京都地裁 藤田清臣(きよおみ)裁判官
当時55歳 1996. 11[理由]

(写真:iStock.com/wutwhanfoto)

親子水入らずで、一緒に銭湯へ行った帰り道。「お母さん、先に行ってアイス買ってくるね」……。母の目の前で突然、幸せな日常が砕け散りました。警察で「お棺に入れてあげてください」と渡された茶封筒には、路上に散った息子の骨の破片が入っていたそうです。

戦後、最高裁が発足して間もなく、ある大法廷判決の理由で「生命は尊貴である。一人の生命は、全地球よりも重い」と宣言されたことがありました。藤田判事は、全地球より重いはずの被害者の生命があまりに軽んじられている交通事故裁判への憤りを、抑えきれなかったのでしょう。それにしても、なぜポケットティッシュ。判決文を考えている最中に、駅前でもらって、「なんて軽いんだ!」とビックリなさったのでしょうか。

この判決が画期的だったのは、ユニークな表現だけではありません。検察官の求刑は懲役2年6カ月。なのに判決は懲役3年。わが国の刑事裁判で非常に珍しい「求刑超え判決」です。

裁判官の量刑が検察官の求刑を上回ることを、法律は特に禁じていません。ただ、そんな判決を言い渡されたら、弁護人はもとより、検察官も立場がないかもしれませんね。

藤田判事は「一裁判官としての思いの丈は判決の中に込めた。そこから酌みとってほしい」という言葉を残すだけで、今は多くを語りません。

関連書籍

長嶺超輝『裁判官の人情お言葉集』

「困ったときには私に会いに来てもいい。そのときは裁判官としてできるだけのことをします」――公判中、氏名を黙秘し続けた窃盗犯に罰金刑を言いわたして。 情を交えず、客観的な証拠だけに基づいて判決を下すのが裁判官の仕事。 しかし彼らも人の子。 重い刑を言いわたす前には大いに迷うし、法律と世間の常識のギャップに悩むこともある。 葛藤を乗り越えて、自らの信条を賭して語りかけるとき、被告人の頑なな心が氷解しはじめる――。 ベストセラー『爆笑お言葉集』に続く涙のお言葉集。

長嶺超輝『裁判官の爆笑お言葉集』

「死刑はやむを得ないが、私としては、君には出来るだけ長く生きてもらいたい」(死刑判決言い渡しの後で)。 裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ、と思っていたら大間違い。 ダジャレあり、ツッコミあり、説教あり。 スピーディーに一件でも多く判決を出すことが評価される世界で、六法全書を脇におき、出世も顧みず語り始める裁判官がいる。 本書は法廷での個性あふれる肉声を集めた本邦初の語録集。 これを読めば裁判員になるのも待ち遠しい!

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