裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ…と思ったら大間違い。
人を裁くという重責を担っているからこそ、ときには厳しく温かく、人間として被告人に、被害者に、そして社会に語りかける場面も。
法廷での個性あふれる裁判官の肉声を集めた幻冬舎新書『裁判官の爆笑お言葉集』から、特に考えさせられる部分を抜粋しました。
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「遺体なき強盗殺人」と呼ばれた事件
もし、犯人でないのなら、説明してくれればありがたかったとも思います。たしかに黙秘権は被告人の権利。だが、あなたの声をもう少し聞いて判断したかった。
強盗殺人の罪に問われ、逮捕当初から容疑を否認し続け、法廷では黙秘。最終陳述でも「身に覚えがない」と述べ、一貫して無罪を主張し続けた被告人に対し、数々の情況証拠を検討したうえで、求刑どおりの無期懲役判決を言い渡して。
京都地裁 上垣猛(うえがきたけし)裁判長
当時56歳 2006. 5. 12[説諭]
2002年10月、当時52歳の会社員が行方不明になり、そのキャッシュカードで現金300万円を引き出したとして窃盗の容疑で逮捕されたのはリフォーム業の50歳男性。やがて容疑は強盗殺人に切り替えられます。ただ、この事件が他の強盗殺人事件と大きく違うのは、「被害者の遺体が見つかっていない」という点です。
被害者の車の中に焼けた肋骨(ろっこつ)の一部があり、そのDNAが被害者のものと一致したことから、検察官は被告人が遺体を焼却したと主張。しかし、弁護側は「DNA鑑定は骨に付いた血液を調べたもの。その骨片が被害者の身体の一部とは断定できない」と、真っ向から争ったのです。
黙秘権などという権利がなぜ認められるのか、疑問に思う人がいるかもしれませんが、これは裏を返せば、裁判制度が「そもそも被告人のしゃべる内容(自白)を疑ってかかっている」ということです。犯人が「やっていない」と自分をかばうのは人として自然な感情。だから被告人のウソは罪に問われないのです。また、捜査官から圧力をかけられ「やった」と言わされているケースも少なくありません。被告人が何もしゃべらなくてもウソをついていても、物的な証拠さえあれば、合理的・科学的に審理はできるはず、というわけです。
とはいえ「話を聞かずに裁くのは気分が悪い」というのも、やはり人として自然な感情。上垣判事の声は多くの裁判官の本音でしょう。