裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ…と思ったら大間違い。
人を裁くという重責を担っているからこそ、ときには厳しく温かく、人間として被告人に、被害者に、そして社会に語りかける場面も。
法廷での個性あふれる裁判官の肉声を集めた幻冬舎新書『裁判官の爆笑お言葉集』から、特に考えさせられる部分を抜粋しました。
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かまってほしかっただけなのに
家族の愛情を求めながら、その家族から虐待を受ける日々を、どんな思いで耐えていたのか。何を感じながら人生の幕を閉じていったのか。願わくば、その人生が悲しみばかりでなかったことを祈る。
3歳10カ月の男児を虐待の末に死亡させたとして、傷害致死の罪に問われた被告人らに、懲役5年6カ月の実刑判決を言い渡して。
千葉地裁 小池洋吉裁判長
当時58歳 2001. 11. 20[付言]
この事件が通常の理解を超えるのは、幼児の義理の母親だけでなく、祖父・祖母、さらには曽祖父までが虐待に参加している点です。
曽祖父は、男児と一緒に留守番を押しつけられるのが嫌で、その不満の矛先を男児に向け、抱えあげて物干し台の支柱に顔面を打ちつけました。祖母は、男児をベルトで柱に縛りつけ、後ろ手にした手首にもヒモを巻いて逮捕罪に問われました。義母は、男児の頭を平手打ちして、弾みで石油ストーブに頭から激突させ、さらに祖父が頭を手拳で数回殴り、男児は6日後にこの世を去りました。彼が弱っていたのに漫然と放置したとして、実の父親も保護責任者遺棄で逮捕されましたが、起訴には至りませんでした。
検察官が刑事処罰を求めた虐待行為だけを挙げましたが、書いているだけでうんざりしてきます。いくら血がつながってないとはいえ、なぜここまで壮絶な弱者いじめができたのか。
被告人らによれば、妊娠していた義母の腹の上に男児が乗っかったために、義母が入院した出来事がきっかけだったそうです。それで怒りを買ってしまったわけですが、小池判事は、男児のこの行動を、新しく生まれる妹に母親を取られる寂しさによる「赤ちゃん返り」だったと認定しています。