裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ…と思ったら大間違い。
人を裁くという重責を担っているからこそ、ときには厳しく温かく、人間として被告人に、被害者に、そして社会に語りかける場面も。
法廷での個性あふれる裁判官の肉声を集めた幻冬舎新書『裁判官の爆笑お言葉集』から、特に考えさせられる部分を抜粋しました。
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そのとき、40センチの段差が埋まった
もうやったらあかんで。がんばりや。
窃盗の罪に問われた被告人に、執行猶予・保護観察つきの有罪判決を言い渡しての、閉廷後の出来事。被告人が退廷するときに、一段高い裁判官席から身を乗り出し、被告人の手を握りながら。
大阪地裁 杉田宗久裁判官
当時47歳 2003. 10. 29[閉廷後]
裁判官に励まされた本件の被告人は、その場に泣き崩れたといいます。育ち盛りの2人の子どもを持つ母親で、パートで働いてはいたものの、数年前に家出した夫の借金まで抱え込み、追いつめられた末に、スーパーで万引きを繰り返していました。
この杉田宗久判事、女性5人が被害に遭った強盗・強姦事件の判決公判において、「検察官の求刑は軽きに失する」として、求刑を2年上回る懲役14年を言い渡したことで有名です。最近も、ある酒気帯び無免許運転に「求刑超え判決」を下しておられます。
「求刑の8割」が、量刑相場として通用している司法業界。求刑を超えた厳しい結論を2回も出した裁判官は、日本広しといえど杉田判事ぐらいのものでしょう。
ある公判では、冒頭陳述(被告人のプロフィールや事件の背景などを語る手続き)で、被告人の前科や前歴の有無を記載しないように、あらかじめ検察官に指示したことでも知られます。「罪を犯した過去があること」と「本件を犯したかどうか」は、本質的には無関係ですからね。偏見や先入観を取りのぞいて、審理に正面から臨むという志に貫かれた、厳しさであり、優しさなのでしょう。