昼に食べたいものを基準に一日の予定を考える
大根 作画を土山さんにお願いするのは、久住さんの要望だったのですか?
久住 いや、マンガ版の担当編集と相談するなかでお名前が挙がってきた感じですね。
(同席していた担当編集 土山先生にご相談したら、「ぜひに!」とすぐに快諾してくださいました。久住さんの作品は、以前から本当にファンで、よく読んでおられたそうです。久住さんの原作をどうコミカライズしていくか、非常によく考えてくれました)
久住 あとはもう、とりあえず一緒に飲んで話しましょう、と(笑)。
大根 それにしても、主人公のオヤジが本当に魅力的なんですよね。
久住 僕は、どんどん土山さんカラーが盛り込まれていくほうが絶対に面白くなるだろうと考えていたから、主人公の個性が見えてきたときに「これはいいぞ」と確信しました。
大根 たぶんあの男が、それまでの人生で野武士的だった瞬間なんてないはずなんですよ。もちろんモテたこともないだろう。そんな男が、「寄らば斬る!」みたいな野武士の自分を妄想して、食べ物に挑んでいく感じがとても面白くて。
久住 ただ、男ウケはいいかもしれないけど、女性読者にはウケル主人公かなぁ(笑)。
大根 ああ、その心配はある(笑)。あと、面白いといえば、食べ物屋で他のお客さんが入店してきて、注文するまでの過程を横目で見ていると、面白い瞬間って多くないですか? さりげなくまわりを見回していたり、メニューを熟読していたり。「あ、悩んでる悩んでる」なんて姿はとても興味深い。そんな姿が『野武士のグルメ』でも描かれていますけど。
久住 わかります。『孤独のグルメ』にしろ『野武士のグルメ』にしろ、描かれていることの多くは悩んでいる姿ですからね。
大根 食べ物で悩む、という関連でいうと、朝起きて、その日の昼に何を食べるかを考え、それを基準に1日の予定を組み立てるなんてこともありませんか?
久住 あるある。ていうか、それは泉さんですね(註:和泉晴紀氏。久住氏とコンビを組み「泉昌之」名義で数々の食マンガを発表)。
泉さんの食は常に逆算ですから。「何時に何を食べるから、そのためにどうするか」を周到に計算しているんです。「カロリーメイトひとつで1時間の空腹はしのげる」とか微調整まで加えて1日の食事を計算している。
たとえば「今日は昼にどこそこでこんな仕事があるから、終わるのはだいたい何時ごろだろう。それなら、どこでラーメンを食べようか」みたいなことを計算して「仕事先でお菓子とかを出されても、あまり手を付けないようにしよう」とかね。
僕は、食べる行為そのものよりも、「何を食べようか」「どういう段取りで1日の食事を組み立てるか」なんて、人がアタマのなかで自分の「食」について密かに考えていることのほうが、はるかに面白いと思っています。さらに付け加えると、人は誰でもモノを食べるわけで、「食」は共通普遍のテーマ。シモネタの反対のカミネタというか。