漫画家とはずっと描きたい人たち
久住 でも話は違うけど漫画家っていうのはすごい人たちですよね。赤字になっても、徹夜しても、描きたいように描くためには、一コマ二日でも三日でもかける。風邪をひいてようが、アタマが痛かろうが、画を描くことだけはやぶさかでなし、というような人でないと漫画家にはなれないし、絶対に続けていけないです。だからボクはとてもなれない。誰かに描いてもらうしかない(苦笑)。
大根 どうってことないサインを一枚書くにしても、漫画家の方々ってちゃんと画を描くじゃないですか。ここまで時間をかけてちゃんと描くのか、と驚いた記憶があります。
久住 土山しげるさん、和泉晴紀さん、谷口ジローさん、「花のズボラ飯」の水沢悦子さん皆さんタイプは違うけど、自分の絵に対する探究心というかこだわりは、皆さんスゴイですよ。そばで見ていて本当に「こんなどうでもいい話を、よくここまで描きこむなぁ!」って思う(笑)。だから、何度も読み返しができるんだけど。
大根 『野武士のグルメ』の中でも「特にこの回の土山さん作画がよかったな」という話はどれですか?
久住 どの回も、それぞれ魅力はあるからなぁ……。個人的に興味深かったのは『雨漏りのコの字カウンター』かな。これ、原作とはまったく違った描き方をしているんですよ。僕は映像でもマンガでも、監督なり漫画家が、ただ原作をなぞらえるだけじゃなく、僕の原作の「感じ」を掴んでくれて、そこに自分なりの解釈を加えてくれるほうが嬉しいんです。
『野武士のグルメ』でいうと、1~2話までは完全に土山さんにお任せする感じで進めました。そして3話あたりで僕もキャラクターのイメージが掴めてきたから、「このセリフ、ちょっと替えてもいいですか」なんて土山さんに申し出たら「いいですね、ぜひぜひ」となってまた独自のテンポが生まれた。
4話あたりで、また飲み会をしました。「土山さんぽくなって、面白くなってきたから、どんどんやっちゃってください」とかボクも先輩に向かってけしかけて。主人公のおかしさを笑って確認し合えてよかった。キャラがどんどんハッキリしてきましたね。
大根 それは理想の原作者ですよ。余計なことはツベコベ言わず、でも適宜感想は伝えながら、温かく見守るという。原作者にもいろいろなタイプがいらっしゃいますから。「好きにやっちゃってください」と言うだけで後は完全に放ったらかし、みたいな人もいます。かと思えば、非常に事細かく「このキャラクターは、こういうセリフの語尾は使いません」なんていちいちツッコんでくる人もいる。その点、久住さんくらいの距離感は本当にベストだと思いますね。
久住 いやいや、恐れ入ります。それに、土山さんだからこそ、というのもあります。土山さんは、やっぱり職人なんですよ。さすが、と思うことが多い。土山さんの作品も名前も知らない人が読んでも、ついクスッとしちゃう大衆漫画をキッチリ描き上げてきますからね。
大根 わかります。それに土山さんの作品は、俺はやっぱり紙で読みたい。だから今回、ウェブに掲載されていた『野武士のグルメ』が単行本化されるのは非常に嬉しいんです。
久住 マンガって、紙で読むほうがいいんですよ。そのほうがもっと気楽に読めるというか。画面で読むと、なんか印象が固い気がしてしまう。
「マンガは芸術だ」なんて人がいるけど、そういう考えは面倒くさくてキライです。漫画はエラそうじゃないところがいいんです。マンガはやっぱり、紙の本で、寝っ転がったりしながら気軽に読めるからこそ魅力的なものだと、僕は思う。もちろん、パソコンで読むのが好き、タブレットで読むのが楽というなら、それも歓迎です。
(構成:漆原直行 撮影:菊岡俊子)
(第4回に続く)