身を刺すような寒風が吹きすさぶ宵、とある店にひとり、また一人と男たちが入って行く。サラリーマンには見えない風貌の彼ら3人はひとつのテーブルに集まり、静かにジョッキを合わせた。そう、彼らは『クッキングパパ』『深夜食堂』『漫画版 野武士のグルメ』の作者たち……。
主人公は定年退職を迎えた「香住武(かすみ・たけし)60歳」
土山 今日はお忙しいところ集まっていただきありがとうございます。
うえやま 最近は東京に出てくると、土山さん、安倍さんにお会いすることも多いですけど、なんだか、いつもとは違う雰囲気ですね(笑)。
安倍 今日は「野武士」や「ひとり飯」についての話ですよね。
土山 はい。今夜は「野武士」のように豪快にいきましょう。まずは「カンパイ!!」
うえやま この作品は久住昌之さんのエッセイが原作ですが、そうすると久住さん自身が主人公のはず。この香住武の設定はどこからきたんですか?
土山 最初は久住さんご本人を描くことも考えてたんです。ただ、どうもしっくりこなかった。それで、新たな主人公像を作ってみようと担当編集者と何度も打ち合わせを重ねたんですが、なかなか決まらなくて……。でも、ある時「野武士→浪人→第一線を退いた者→定年退職した男……」という構図が浮かんだんです。すぐにラフ画を描いて、久住さんにも見てもらったら大変気に入ってくれて。そこから、野武士の心で食と対峙する「香住武」が生まれました。
安倍 それにしても、面白いですよね。食べる気持ちが「野武士」なんて。メニューはごくありふれたものなのに、辿り着くまでホント真剣に悩むんですから。
土山 毎回、導入部分には悩みました。原作は久住さん自身がそのメニューに辿り着くまでの心の様子が巧みに描かれていましたから、それをどのように「香住武」に置き換えるか。香住の設定としては、これまで真面目にサラリーマン生活を送ってきた男。朝は自宅で朝食をとり、決まった時間に外出。昼休みは社員食堂、夜はたまに接待まがいのものがあるけど、基本的には家で晩酌をしながら食事をする。そんな人生を普通に楽しんでいた60歳なんです。35年におよぶサラリーマン生活を幸せに送ってきたはず。ホントに普通。だからこそ、少しずつひとり飯の世界に目覚めていく香住を〝五感を駆使〟して食に挑むようにしたかった。
うえやま 1話目で焼きそばに気づくのもソースの匂いでしたね(「九月の焼きそビール」)。なんでもない焼きそばがホント美味そう。土山さんが描く「麺をすする姿」は食欲をそそりますよ。
土山 そう言っていただけると嬉しいです! 食に対する姿勢を描いていくのは難しかったけど、食べている絵を描くのは大好きですから。味覚だけじゃなく、目・鼻・耳を駆使して身体全体で感じるように食べさせたかったんです!!
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