心疾患、脳卒中、腎結石、骨粗しょう症、胃がん……重大な病気を招く原因にもなる「塩分」。世界で推奨されている1日あたりの塩分量が5グラムなのに対し、日本の平均的なビジネスパーソンは、ゆうに15グラムを超えるそうです。東京慈恵会医科大学附属病院栄養部の監修による『はじめての減塩』は、美味しく、簡単に塩分を減らすための知恵と工夫が満載の一冊。その中から、ぜひ覚えておきたい基礎知識をいくつかご紹介します。
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味つけは1回に
煮る、炒める、揚げる、蒸すという調理法のなかで、先ほどお話しした「煮る」以外に高塩分になりがちなメニューはどれでしょうか。
外食のところで、揚げ物はソースなどあとからかけるものに気をつければ、意外と塩分は少ないというお話をしました。残る選択肢は「炒める」と「蒸す」ですが、答えは「炒める」です。それは「見えない塩分」のせいです。
先に「蒸す」からお話しすると、蒸し料理は蒸した食材をあとからたれなどにつけて食べるパターン、もしくは味をつけてから蒸してそのまま食べるパターンが一般的だと思います。つまり、味つけのタイミングは加熱前か加熱後の1回ということになります。
一方、「炒める」の場合はどうでしょうか。
肉野菜炒めをつくるとしたら、まず肉に塩、こしょう、酒などをふって下味をつけると思います。それからフライパンに肉と野菜を入れて炒め、最後に塩やこしょう、しょうゆなどを入れて全体にまんべんなく味をつけます。したがって、味つけのタイミングは下味と仕上げの2回ということになります。
からあげなら、肉に下味をつけたあとにそれ以上味つけはしません。下味といいながら、実際にはメインの味つけになっているわけです。他方、野菜炒めの場合は、下味だけで済むことはまずないでしょう。肉には味がついていても、野菜には味がついていないからです。そこで仕上げの味つけ、これがメインの味つけになるわけですが、炒め終わるところでもう一度、調味料を加えて全体の味を調えることになります。
つまり、2回味つけをすることが多い「炒める」は、それだけ塩分が多くなる可能性があるということです。下味のときはたいして塩をふっていないからと、その際に使われる塩分はついつい見過ごされがちです。これが「見えない塩分」となって炒め物の塩分量を押しあげるのです。
塩分を減らすためには、味つけは仕上げの1回だけで済ませること。
そう言うと、食材の臭みをとるために下味は必要ではないかと思うかもしれません。そういう場合は、塩やしょうゆなどの塩分が含まれている調味料を使わない形での下ごしらえを考えればいいのです。
たとえばレバニラ炒め。レバーの臭みを取り除く方法には、氷水につける、牛乳につけて洗うなどいろいろありますが、いちばんはさっと火を通すことです。短時間、熱を加えることで臭みを感じさせないようにするのです。
つくり方は、まずレバーをしょうがと酒につけます。塩やしょうゆは入れません。そのあと軽く片栗粉で衣をつけ、多めの油でさっと火を通します。あとは野菜炒めの要領で普通につくれば、下味の塩分はゼロでおいしいレバニラ炒めができます。
下味といえば、長年の習慣で塩に手が伸びるという人は多いのではないかと思いますが、そのクセをやめること。下味をつけたいなら、こしょうや酒、ハーブなど塩分のないものだけにして、メインの味つけは1回にとどめること。そうすることで意識せずに摂っていた「見えない塩分」を減らすことができます。
なお「見えない塩分」に関して一つ、つけ加えておくと、青菜などを下ゆでする際に入れる塩は、鍋いっぱいの水に対してひとつまみ程度。塩分濃度にすると0.01%にも満たないですから、これに関しては神経質になる必要はないでしょう。
味つけは片面だけに
「味つけは1回にする」と同じく覚えてほしいのが、「調味料を片面だけにつける」という小ワザです。
口に含んだときに、まず塩味のあるところがふれると、少ない塩分で満足感が得られることを「ゆで卵」の例でもってお話ししました。卵の表面に塩がふってあると、舌がまずその塩をとらえて、塩気の余韻がしばらく残ります。そのため、使う塩の量は少なくても、塩味をしっかりと感じられるという減塩テクニックですね。
「調味料を片面だけにつける」も、いわばこの法則の応用例です。
たとえば、焼きおにぎりをつくるとき。しょうゆやみそを表につけ、裏にもつけますよね。さらに側面にも入念につけるという人もいるかもしれません。
ですが、先の法則でいえば、塩味をまずとらえるのは最初に舌がふれたところだけ。ならば、片面だけしっかりつけてあげれば、ちゃんと味がします。
片面だけだと、裏面や側面につけていた分を減らせるので、それだけで単純に考えれば3面なら1/3、2面なら1/2に塩分を減らすことができます。それだと味気ないのではないかと思うかもしれませんが、焼きおにぎりはしょうゆの焼けた香ばしさが加わるので、片面でも十分おいしく食べられるでしょう。
ステーキなど肉を焼くときも、下味をつけず、仕上げに片面だけ塩、こしょうをふってみてください。
鶏肉の照り焼きや、魚のみそ焼きなども調味料は片面だけに。みそ焼きの場合、みそにヨーグルトやマヨネーズなどを加えると、さらに減塩できるのでおすすめです。