元カリスマ書店員のアルパカ内田さんは、現在ブックジャーナリストとして活躍中。一日一冊読んでいるという”本読み”内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選んでくださる!そして”POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ってくださる!という新連載がスタート。
さらに、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介いたします。
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第1回 澤村伊智『怖ガラセ屋サン』
はじめまして。まんじゅう並に本が「怖い」アルパカ内田です。さて。
「怖い」という感情はいったい何処からやって来るのだろうか。怒りでもなければ哀しみでもない。何か得体のしれない存在に対する「畏れ」もあれば、理由があって発生した都市伝説もある。思いもよらない自然現象が巻き起こすパニックもあれば、欲に塗れた人の本性が生み出した犯罪じみた行為もある。
人はこの世に生まれ落ちた瞬間から「恐怖」とともに育ってきたのかもしれない。こっくりさん、口裂け女、トイレの花子さん……とりわけ幼き日々の記憶にこびりついた直接的な悍ましさは何十年たっても剥がれ落ちることはない。背筋を凍らす恐ろしさによって立った鳥肌が幾重にも重なり、地層となっている気がする。まるで琵琶法師の身体にびっしりと書かれた経文のように人間そのものを包みこんでいるのだ。
大人になるほど恐怖は音もなく忍び寄る。死に近づいているからだろうか、心の隙間に巧みに滑りこんでくるのだ。ゾクッとした気配を感じるとき、異なる存在は確かにそこにいる。善も悪も光も闇も必然も偶然も関係ない。決して逃れることのできない多種多様な恐ろしさとの共生が「生きる」という営みなのかもしれない。この物語に仕掛けられた著者の企みに、ただひたすら震えるばかりだ。
しかしこれほど真剣に「恐怖」について考えさせられた物語も稀である。過去の記憶を呼び覚まし、今この瞬間に緊張を走らせ、「恐怖」のその先の光景を見せつける。本物の恐怖を知る作家・澤村伊智こそ間違いなく稀代の「怖ガラセ屋サン」だ。これを読めばきっと、“予感”が恐るべき“悪夢”になり、油断すれば名前の知らない魔物が全身に取り憑くだろう。心して読むべし。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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