富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる時代。先行きの暗い中、私たちはどう働けばよいのか……。その悩みに答えてくれるのは、高校卒業後、営業、飲食、アパレル、コピーライター、デザイナー、専門学校講師など、20以上の職業を経験した小説家、福澤徹三さん。著書『自分に適した仕事がないと思ったら読む本』には、福澤さんが長年かけて培った仕事術・就職哲学が詰まっています。その中身を一部、ご紹介しましょう。
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フリーターはこんなに損をする
「やる気」がでないひとほど、正社員よりフリーターを選びます。むろん本人がよければ、それでも問題はありません。
しかしアルバイトは自由が利く反面、責任がないという欠点があります。だからこそ気楽なわけですが、責任がない立場では仕事の能力が身につきません。したがって、いつまでも下働きを余儀なくされます。サラリーマンとフリーターの生涯賃金は、二億から三億円の差があるといわれていますが、所得でも不利をこうむります。
独立して自分で商売をするにも、いったんは企業へ入らないと、専門的な知識や技術を身につけるのはもちろん、取引先とのコネを作れません。
アルバイトや派遣社員に仕事をあっせんするアウトソーシング系の企業は、いまや大繁盛です。便利だと喜んでいる若者もいるようですが、悪くいえば、本来もらえるはずの給料をピンハネされているのです。
業種にもよりますが、クライアント側から派遣会社に支払われている金額は、派遣社員がもらう給料の倍にものぼります。つまり自分で仕事を探さなかった代償として、正規の給料の半分しかもらっていないのです。
仕事の能力が身につけられて、きちんと報酬がもらえるのは正社員しかありません。
もっとも、こういう本を手にとるくらいですから、読者のみなさんは、そんなことは百も承知でしょう。しかし、わかっていても、なかなかでないのが「やる気」です。学生たちと接するなかでも、就職に「やる気」がでないという台詞を頻繁に耳にします。
けれども就職するのに、あるいは仕事をするのに「やる気」は必要でしょうか。
水は一瞬で湯には変わらない
まえがきにも書いたように、わたしは根っからの怠け者ですから、たいていのことに「やる気」がでません。
この本にしろ、就職で悩むひとの役にたてばと思って──いや、もっとあけすけにいえば、生活のためもあって書きはじめたものの、作業自体は苦痛でしかありません。
ほかの締切は重なっているし、新書を書くのははじめてです。わたしのように無学な者がうかつなことを書いて、足元をすくわれるのではないかと、ひやひやします。
過去にやってきたどの仕事も九割は苦痛で、楽しいことなど一割にも満たないというのが実感です。
「ああ、働きたくない。でも金はほしい」
というのが本音です。
わたしが極端な怠け者だからそう思うのかもしれませんが、そもそも人間は「やりたいこと」を「やりたいとき」にしか「やりたくない」生きものではないでしょうか。
仮に出勤さえすれば、なにもしなくていいという会社があったとしても、毎日決まった時間に起きるだけで充分に苦痛だと思います。
苦痛を避けるのは生きものの本能ですから、就職に「やる気」がでないのは正常です。生まれながらに就職したい人間などいないので、そうしなければいけないと教育されたにすぎません。
企業にしても「やる気」のある人材がほしいといいますが、それはそう見える人物が好ましいというだけで、本音には関心がないのです。企業が求めているのは精神ではなく、仕事の結果です。
とはいえ、慣性の法則は精神にも作用しているようで、止まっている状態から動きだすには、かなりのエネルギーを要します。それが「やる気」だともいえますが、必ずしも「乗り気」でなくていいのです。
いやいやながらでも、いったん動きだせば弾みがついてきます。
それでも動けないのは生活に余裕があるからで、恵まれた環境にいるということです。今夜の飯が喰えないという状況になれば、「やる気」などなくても働かざるを得ません。イラクやアフガニスタンに、ひきこもりはいるでしょうか。
水が一瞬で湯には変わらぬように、「やる気」は最初からたぎっているものではありません。就職して仕事をこなしているうちに、ふつふつと沸いてくるものです。
仕事のイロハもわからないうちから、無性に「やる気」があるのは頼もしいものの、空元気に終わる可能性だってあります。下手に意気ごんだぶん、失敗したときのショックは大きいでしょう。それで落ちこむくらいなら、「やる気」などないほうがいいのです。
「きのうにこだわり、あすを夢見て、きょうを忘れる」という言葉がありますが、大切なのは「やる気」に執着することではなく、とりあえず行動することです。
自分に適した仕事がないと思ったら読む本
富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる時代。先行きの暗い中、私たちはどう働けばよいのか……。その悩みに答えてくれるのは、高校卒業後、営業、飲食、アパレル、コピーライター、デザイナー、専門学校講師など、20以上の職業を経験した小説家、福澤徹三さん。著書『自分に適した仕事がないと思ったら読む本』には、福澤さんが長年かけて培った仕事術・就職哲学が詰まっています。その中身を一部、ご紹介しましょう。