幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
カツセマサヒコ『明け方の若者たち』
こちらはもっとも「パーフェクト」から遠い登場人物たちの物語。
主人公の“僕”が、大学の飲み会で出会った彼女に一目ぼれしたことからストーリーが始まる。明大前駅の小さな公園、下北沢の路地、レンタカーで出かけた夏の旅、高円寺のアパート……。なんでもない場所で紡がれたなんでもない日々。でもすべてがキラキラしていた。大学生から社会人になった“僕”の日々はすべて彼女で満たされていく。
「もうとっくに肩の上まで、彼女という沼に浸かっていた。好きだった。」
きっと、誰にでもあった思いだろう。読者は皆、自分の記憶を重ねて、この物語を読み進める。
そして、これも多くの読者たちは知っている通り、たいていの恋愛には必ず終わりがくる。“僕”も例外ではなかった……。
「明け方の若者たち」と聞いただけで、誰もがそれぞれの過去に体験したであろう、徹夜明けの高揚感と気だるさ、長い影を作る朝日に照らされた街の色や匂いなんかを思いだす。
振り返れば人生の「マジックアワー」。それは、あの朝の風景のようにすぐに形を変えてしまう。著者はその輝かしい時間をある時は眩しく、ある時は徹底的にダサく不様に描ききった。この物語には完璧な人は出てこない。だからこそ、みんなこう思うはずだ。これこそ自分の物語だと。あの日の自分がここにいると。
※12月31日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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