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その下ごしらえ、ホントに必要?

2022.01.13 公開 ポスト

野菜のアクは「らしさ」だから、しっかり取らなくても美味しく頂けます。野田真外(映像ディレクター)/松本仲子

コロナ禍を経て、自宅で料理をする人が男女共に増えています。でも、いざ始めてみると色々と素朴な疑問が出るものですよね。そんな料理初心者の方をはじめ「なんとなく日々料理をこなしているけど、自己流でやっていてイマイチ美味しくならない」という方にお勧めなのが『その下ごしらえ、ホントに必要?』です。必要だと思っていたけれどやらなくてよかったことや、これは外さないで! ということが分かる1冊から、少しずつ試し読みを掲載致します。

(写真:iStock.com/kumikomini)

野田 僕の妻はきんぴらが好物なので、ごぼうはよく使うんですが、ごぼうのレシピを探してみると、たいていは「水にさらしてアクを取る」って書いてあるんです。そのまま使っても特に味が悪いとは思わないんですが、やっぱり野菜のアクは取った方がいいんでしょうか?

松本 私は野菜のアクはその野菜の「らしさ」だと思うんです。ごぼうらしさだったり、ほうれん草らしさだったり。だからそれを丁寧に取っていくと、逆に「らしさ」がなくなったと感じるんですね。例えば、ほうれん草のアクを本当にしっかり取りますと、何の青菜なのかわからないくらい「らしさ」がなくなるの。

そもそも最近のごぼうは、昔のごぼうに比べると「ごぼうらしさ」、つまりアクや香りがかなり少なくなっています。それなのにアクをしっかり取ってしまうと、ごぼうの香りそのものがなくなってしまうんですね。ちょっと面倒でもご自分で料理することで、ごぼうの本当の美味しさを楽しめるようになりますよ。

でも私もごぼうの香りのこと、学生と一緒に実験するまで実は気が付かなかったんです。

野田 どんな実験で気付いたんですか?

松本 お店で売っている千切りのごぼうと、それと同じ大きさに学生が切ったごぼう、両方をきんぴらにしたんですね。それで美味しさを評価してみましたら、香りが違うんですよ。みんな自分たちで切ったごぼうの方が「香りがいい」と言うんです。

それからは香りに気を付けるようにしたら、自分で切って作ったものは確かに香りがいいんですね。千切りで売っているごぼうは水さらしをしてアクを取っていますから、香りがない。それで、「なるほど、歯触りよりも、香りの違いが大きい」と実験から教えられたんです。

野田 千切りで売られているごぼうは、手間は省けるけれど、香りをなくしているわけですね。

松本 しっかり水さらしをしないと、売る時にアクが出てきて黒くなります。そうすると売り物としては見た目が悪いですよね。だから見た目をきれいにするために仕方なく水にさらしているんです。

野田 黒くなるのはちょっと嫌ですよね。

松本 きんぴらでも煮物でも、おしょうゆを使うと色が付くでしょう。同じですよ。私はささがきでも千切りでも切るはしから水に入れますが、切り終えたらすぐに調理するんです。いわゆる「アク取り」や「さらし」というのは必要ないんじゃないかと思います。

ただ野菜のアクは、好きな人は平気なんですが、嫌いな人はとても嫌うことがあります。それもあって、ごぼうに限らずお店で売っている調理済みの野菜はかなりしっかりアクを取ってあるんですね。例えばたけのこを煮た時に「えぐみ」があるととても嫌う人がいるの。好きな人にはそれが美味しいのだけれど。そういうえぐみが嫌いな人に合わせるために、ゆでて売っているたけのこはほとんどアクを取ってしまっているんです。

野田 市販のたけのこに「えぐくて美味しくない」と文句を言う人はいても、「もの足りない」と言う人はあまりいないんでしょうね。

松本 たけのこのえぐみが嫌いな人も安心して食べられるのはいいのだけれど、好きな人にとってはもの足りないんです。そういう「たけのこらしさ」はね、生のたけのこを自分でゆでて、少しえぐみを残すと味わえますよ。

野田 わざとアクを取りきらないんですね。

関連書籍

〈教えた人〉松本仲子/〈教わった人〉野田真外『その下ごしらえ、ホントに必要? 段取り少なく美味しくできる、家庭料理の新常識レシピ』

家庭で炊事担当になった男性TVディレクターが女子栄養大学名誉教授に教わった、「本当はやらなくていいこと」を省いて美味しい料理を作るコツ

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その下ごしらえ、ホントに必要?

家庭で炊事担当になった男性TVディレクターが女子栄養大学名誉教授に教わった、「本当はやらなくていいこと」を省いて美味しい料理を作るコツ。

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野田真外 映像ディレクター

1967年生まれ。福岡県北九州市出身。CM制作会社、フリーランスを経て、2003年に有限会社グラナーテ設立。TV番組など映像の演出をメインにグラビアDVDから温泉旅番組、オタク番組まで幅広く活動。主な映像作品に『東京静脈』(03)『行くぞ! 30日間世界一周』(08)等。押井守原理主義者で1997年には研究本『前略、押井守様。』(フットワーク出版)を上梓。

松本仲子

1936年生まれ。女子栄養大学名誉教授。聖徳大学大学院兼任講師。管理栄養士。医学博士。専門分野は調理学、官能評価法、食文化論。「調理法の簡便化が食味に及ぼす影響」等の研究多数。著書に『楽しい食品成分のふしぎ 調理科学のなぜ?』(朝日新聞出版)、『調理と食品の官能評価』(建帛社)、『日本食と出汁―ご馳走の文化史―』など多数。

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