幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
宮内悠介『かくして彼女は宴で語る~明治耽美派推理帖~』
大阪のテレビ局とは180度対照的な本作をぜひ!
明治40年代の東京。月2回、両国橋近くのレストランで開かれる「パンの会」なる耽美派サロンに集う芸術家が、それぞれに見聞きした事件を「安楽椅子探偵」として解決していくミステリー。彼らは木下杢太郎、北原白秋、石川啄木……。やがて近代日本の文化の礎となる若き才能たちだ。
乃木将軍を模した菊人形に日本刀が突き立てられた事件、当代一の高層建物だった浅草・凌雲閣の最高階で起きた謎の転落死、駿河台のニコライ堂での殺人事件などが持ち込まれるのだが、その謎解きの妙ももちろんのこと、著者の丹念な取材と巧みな筆さばきで書かれた当時の情景描写が見事で、読者は時間旅行も大いに楽しめる。
張り巡らされた伏線も絶妙で、登場人物が何気なくこぼした一言がのちのち重大なヒントにもなるなど、読者は心地よい緊張感を強いられることになる。
圧巻は最終話。この著者でなければ思いつかないストーリーだ。
明治末期の底知れぬ躍動感、芸術に賭ける若者たちのほとばしるエネルギー。100年の時間を超えて、弛緩しきった令和に届いたメッセージなのかもしれない。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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