腸内環境は私たちの健康に大きな影響を与えます。「長寿の町」として知られる京都・京丹後市の人々を調査したところ、腸内細菌、とくに「酪酸菌(らくさんきん)」を多く腸内に持っていることが明らかになりました。
さらに最新の研究で、酪酸菌は新型コロナや花粉症にも驚きの効果をもたらすこともわかってきました。なぜ酪酸菌が免疫力を高めるのか? どうすれば悪玉菌を減らして酪酸菌を増やすことができるのか? テレビ出演多数の「腸のカリスマ」、消化器専門医・江田証さんが腸から元気になる秘訣を解説。新刊『すごい酪酸菌 病気になる人、ならない人の分かれ道』から一部を紹介します。
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日本人の腸内細菌は特別だった
腸内細菌の研究発表のひとつに、腸内細菌の状態を国別に比較したものがあります。そこから新しい興味深い事実がわかってきました。
たとえば、中国人とアメリカ人の腸内細菌は酷似しているという発見。2つの国は地理的に遠く離れているのに、腸内にある細菌はとてもよく似ているのです。不思議だとは思いませんか。腸内細菌には、まだまだ未知の要素があり、多くの研究者が解明に取り組んでいます。
これらの研究のなかでもいま世界が注目しているのは、日本人の腸内細菌は非常に独特で、世界のどの国の腸内細菌と比較しても一線を画しているという事実です。
日本人の腸内細菌の特徴として、いわゆる善玉菌に分類される「アクチノバクテリア門」の「ビフィズス菌」が多いこと、炭水化物を処理する腸内細菌が多いこと、水素から短鎖脂肪酸を作る作用が強いことなどが挙げられます。
なかでも目を引くのが、日本人の腸内には、ちまたで“でぶ菌”などと言われて疎(うと)まれている腸内細菌が非常に多いということです。
海外の一部の研究データでは「ファーミキューティス門」と言われる腸内細菌が多い人には肥満の人が多く、「バクテロイデス門」という腸内細菌が多い人にはやせ型の人が多いことから、日本のマスコミなどでは、ファーミキューティス門の細菌を“でぶ菌”、バクテロイデテス門の細菌を“やせ菌”などと名づけて話題になっていました。
そこで健康のためやダイエットには、でぶ菌=ファーミキューティス門の腸内細菌を減らし、やせ菌=バクテロイデテス門の腸内細菌を増やすことが重要という先入観ができてしまいました。
ところが、でぶ菌否定は私たち日本人には当てはまらないことが、最近の研究でわかってきました。
つまり、“でぶ菌”などと濡れ衣を着せられたファーミキューティス門の腸内細菌こそ、日本人の腸管の免疫力を高め、長寿にも関係していたのです。そしてこの“でぶ菌”が作り出すもっとも重要なものこそが「酪酸」で、これが私たちを守ってくれていたのです。
日本人の長寿者に特異的な腸内細菌は酪酸だった
京都府の京丹後市という日本海側の地域では非常に長寿者が多く、しかも長生きだけではなく、寝たきりが少なく、健康長寿の方が多い。より都会の京都市内よりもずっと元気で長生きなので、古くから日本有数の長寿地域として有名です。
実際、日本の男性で歴代もっとも長生きだった、木村次郎左右衛門さん(116歳没)も実は京丹後市在住でした。
人口10 万人あたりの100歳以上の人は、全国平均で53人、京都市内では65人に対し、京丹後市では160人。全国と比較すると実に3倍と圧倒的に多いのです。
その京丹後市の65歳以上の高齢者の腸内細菌を研究調査したところ、前述の「ファーミキューティス門(でぶ菌)」の割合が高いことが判明しました。さらに腸内細菌の構成を個々に詳しく調べていくと、その多くを「酪酸」を産生する「酪酸菌」が占めていました。
腸のなかには100兆個以上とも言われる数の腸内細菌が棲んでいます。この腸内細菌が、食べたものを分解して酪酸を作っています。
この酪酸こそが、足腰をピンピンと強くして寝たきりを防ぎ、腸の粘膜を健康に保ち、寿命を長くすることがわかってきました。
つまり、長寿と酪酸のあいだには深い関係があったのです。
すごい酪酸菌
「腸内環境」は、私たちの健康に大きな影響を与えます。なかでも、「酪酸菌(らくさんきん)」を多く腸内に持っている人は、長生きであることがわかっています。さらに最新の研究では、新型コロナや花粉症にも驚きの効果をもたらすこともわかってきました。なぜ酪酸菌が免疫力を高めるのか? どうすれば悪玉菌を減らして酪酸菌を増やすことができるのか? 「腸のカリスマ」の異名をもつ消化器専門医・江田証先生の『すごい酪酸菌』より一部をご紹介します。