コロナ禍を経て、自宅で料理をする人が男女共に増えています。でも、いざ始めてみると色々と素朴な疑問が出るものですよね。そんな料理初心者の方をはじめ「なんとなく日々料理をこなしているけど、自己流でやっていてイマイチ美味しくならない」という方にお勧めなのが『その下ごしらえ、ホントに必要?』です。必要だと思っていたけれどやらなくてよかったことや、これは外さないで! ということが分かる本書から少しずつ試し読みを掲載致します。
松本 煮魚のポイントは、「最後に少し煮詰めて煮汁を少なくする」ということです。最後の煮汁を適量残すようにしたら、絶対に美味しい煮魚ができると思います。
野田 どうやって適量を残すんでしょう。
松本 調理実習の授業では必ず煮魚を作るんですけど、試食の時に見て回ると、みんなちゃんと魚に煮汁が適量かかっている。それで全員美味しくできていると思い込んでたんです、何十年もの間。でも一般的にも「煮魚がどうもうまくできない」という話が増えてきて、何が原因なんだろうと思って考えたの。
野田 何が原因だったんですか。
松本 学生たちはテキスト通りに煮魚を作るでしょ。でもテキストに書いてある時間通りに煮ると、完成した時には煮汁がまだだぼだぼなんです。でも盛りつけたのを見るとちゃんと煮汁が適量かかってる。それで「さっき見た時は煮汁がいっぱいあったけど、全部煮詰めたの?」と聞いたら「かける分だけ残して捨てました」と言うんですよ。でも、煮汁は煮詰めないと味が薄くて水っぽくなってしまうんですね。
野田 どうやって煮詰めればいいんでしょうか?
松本 煮上がってもうぼつぼついいなと思う頃に、落とし蓋を外して、火をちょっと強くして、一人分につき大さじ一杯くらいの煮汁が残るように煮詰めるんですね。たんぱく質というのは味がほとんど染みないから、煮ても魚の身自体は味がないんです。だから魚にその煮汁を付けながら食べるのが煮魚なんですね。そのために、そのお魚にかけるだけの大さじ一杯の煮汁を残して欲しいわけです。
野田 煮詰めるという作業がきちんと行われてなかったと。
松本 私は何十年も教員をしていながら、最後の年になってはじめて、煮魚の煮汁のことにようやく気が付いたんですね。
野田 テキストには「煮詰める」という工程は書いてないのでしょうか。
松本 書く側は、それくらいまで煮詰めてくれるだろうと思ってるんでしょう。私も何十年も「ちゃんと煮詰めてる」って思い込んでましたから。そしたら「煮汁は捨てました」と。「ちょっとあなた、残った煮汁を捨てたら味が薄くなるから美味しくないでしょ」って言ったら「はい」って(笑)。
野田 松本先生にとっては盲点だったんですね。
松本 本当になぜこれまで気が付かなかったんだろうと思いました。それで、いつもは煮魚の調理実習というのは1回しかやらないんですけど、その年は3回煮魚をしたんです。2回目は「これくらいになるまで煮汁を煮詰めなさい」と具体的に見せてあげて。3回目はもう知らん顔して「美味しくなるように煮なさい」って適当にまかせたんです。そしたらみんなもうちゃんと煮汁大さじ一杯くらいになるまで煮詰めて、それを器に盛りつけて、その汁をかけて食べてましたね。
野田 煮魚というのはそういう食べものだという前提で考えないと、間違っちゃうんですね。
松本 大さじ一杯まで煮詰めた煮汁をかけると魚につやも出ますし、盛りつけた時にきれいなんです。しかも食べる時につけつけ頂くと美味しいの。それは野菜の場合も同じで、カボチャや里芋、大根を煮る時も最後に煮汁を残しておいて、それをかけるとカボチャがつやつやしてとても美味しそうに見えるんですね。ただカボチャは煮汁をどんどん吸いますので、少し多めに残しておく方がいいですね。
その下ごしらえ、ホントに必要?
家庭で炊事担当になった男性TVディレクターが女子栄養大学名誉教授に教わった、「本当はやらなくていいこと」を省いて美味しい料理を作るコツ。