幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
井川意高『熔ける再び ~そして会社も失った~』
一方こちらは、カジノで巨額のカネを熔かした男の物語。著者は、自身が社長、会長を務めていた時に、ギャンブルによる負債の返済に使う目的で子会社から55億3000万円を借り入れた。それが特別背任にあたるとして、懲役4年の実刑判決を受けた。
本書はその刑期満了後、韓国のカジノに向かうシーンから始まる。手元には3000万円の現金。「この種銭を元手に、今回はどこまで勝てるかな……」。懲りていない。またやった。韓国で4日間のギャンブルの果て、3000万円は9億円に。これで106億円の負けが取り戻せるのではないか……。著者の夢想は確信になり、時間をおきながら賭けを続けるが、結局全部熔かしてしまう。そして、その翌年にはシンガポールで1か月間カジノに明け暮れ、今度は4000万円を熔かす。「ギャンブルバカ一代」は、自分の身を危険極まりないエッジの先端に置き、脳髄がしびれるような勝負をしないと生きている心地がしないのか……。狂ったのはギャンブルだけではない。受刑時には獄中から手紙で指示を出し数千万円のフェラーリを次々と購入。買った車はただ停めておくだけにもかかわらずだ。本書はこんな人生を送った孤高のギャンブラーが自分を冷静に語った告白記である。そして、そのいわば放蕩記以上に面白いのが、著者の一族を大王製紙から追放しようとする一派の狡猾なクーデターの全真相。それはドラマよりも生臭く、ギャンブルよりも血がたぎる。
こんな、けっしてだれにも真似できない日々を生きる男の唯一無二の傑作ノンフィクションをぜひ!
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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