2022年3月から進んできた円安、とくに先月の7月14日には二十数年ぶりに1ドル139円代まで値下がりする事態に直面し、不安を感じた人も多いのでは。揺り戻しはあるものの、円は、日本は、今後どこまで弱くなるのか。話題書『Xデイ到来 資産はこう守れ』(藤巻健史著/幻冬舎)から一部を抜粋してお届けします。
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為替とは相対論である
「これこれ、しかじかの理由で円は弱くなるだろう」との話をしますと、「米国も同じじゃないか、財政ファイナンスだって同じようにやっている」と反論される方がいらっしゃいます。確かに世界中で大なり小なり財政ファイナンスを行い、紙幣をばらまいている以上、全世界の法定通貨は弱くなると思います。
ですから後で述べますが、多少なりとも、ビットコインのような発行枚数の上限が決まっている暗号資産の所有をお勧めしているのです。
しかし忘れてならないのは、為替とは相対論だということ。どちらの通貨がより強く、より弱いかで決まるのです。ドル/円において、ドルと円ともに弱くなることはありません。すなわちコイントスで表と裏が同時に出ることがないのと同じなのです。
ドルより円のほうが数万倍も弱くなるのなら、ドル/円は天文学的な数字に跳ね上がるということです。
円安はどこまで進むのか
2022年4月29日朝日新聞経済欄に私の為替見通しを載せていただきました。「日銀の債務超過危惧 1ドル500円、国債投げ売りも 藤巻健史さんが語る『悲観論』」というタイトルでした。
現状とかけ離れた予想をするたびに、私のSNSに「あまり非現実的なことは言わないほうがいい。1ドル=500円なんて5年以内に実現する可能性はゼロ」というような投稿が舞い込んできます。私は次のような返信をしています。「皆さんが、そう思いたい気持ちはよくわかります。しかし残念ながら希望と現実はきちんと区別して考えねばなりません。黒田日銀総裁が、昔の日銀総裁が聞いたら腰を抜かすような過激なことをやってきてしまったのですから、私の結論が過激になるのは致し方がないのです。こうなっては自身で自分を防衛するしかありません」
2013年に黒田日銀は異次元緩和(=財政ファイナンス)を開始することによって、財政破綻を先送りすることにしました。日本は不足する歳入の代わりに、紙幣を刷って賄うことにしたのです。
MMT論者の主張のように、円は日本の自国通貨ですから、確かにいくらでも刷れます。しかし、信用ある紙幣をいつまでも刷れるとは限らないのです。「いくらでも紙幣を刷れること」は「いつまでも信用ある紙幣を刷れること」とは違うのです。日銀は世界の中央銀行の中でも、断トツの数の紙幣を刷りまくりました。円の価値が世界で一番、下落してもおかしくないのです。
1ドルが天文学的な数字になることはあるのか
私のツイッターに、次のような質問が来たことがあります。
「1ドル=500円で定着する時代もありうるのでしょうか? 円が暴落したとき、平均の為替水準はどのくらいをお考えでしょうか?」
私の回答は次の通りです。
「日銀がなんとか存続していたら、1ドル=500円くらいで止まる可能性はあります。しかし日銀が債務超過になり、それが一時的でないとわかると、日銀の信用は失墜し、その発行する円の価値はほぼゼロになります。その場合はドル/円は天文学的なレベルになるでしょう」
円が暴落すれば、必ずハイパーインフレになる
ドル/円が天文学的なレベルになる(=円の大暴落)ということは、円の価値がほぼゼロになるということです。まさにハイパーインフレです。
よく、「今デフレなのに、ハイパーインフレなど来るはずがない」とか、「戦争で供給網が壊されない限り、ハイパーインフレなど起こるわけがない」と主張される方がいます。
しかし、インフレ/デフレとハイパーインフレでは、発生原因が違うのです。お金の量が一定なら、インフレ/デフレはモノやサービスの需給で決まります。需要のほうが供給よりも多ければ、モノやサービスの値段は上がっていき(=インフレ)、需要のほうが供給よりも少なければ、値段は下がって(=デフレ)いきます。
モノやサービスの量が一定なら、市中に出回っているお金の量が増えるにしたがってお金の価値は下落し、モノやサービスの値段は上昇(=インフレ)していきますし、お金の量が減っていけばお金の価値は上昇し、少しのお金でモノやサービスが買えるようになります。したがって値段が下がっていくのです(=デフレ)。
しかし、円が石ころ化(=価値がゼロ)したら、いくらモノがあふれていようと、誰もモノを売ってはくれません。ハイパーインフレはお金の信用が失墜したときに起こるのです。
元米財務長官のサマーズ氏が「インフレにするのは簡単だ。中央銀行が信用を失えばいい」と発言したことがあります。中央銀行が信用を失墜する最たるものは債務超過、民間で言えば倒産状態です。債務超過になれば、中央銀行の信用は失墜し、その負債である通貨の信用も失墜するのです。石ころ化した通貨では、誰も商品を売ってくれないのです。
その意味で、もし日銀が債務超過になり、世界が日銀を見捨てるならば(日本人は最後まで信用しようとしがみつく可能性が高いですが)、円は石ころ化しドル/円は天文学的な数字になるのです。
ドイツの戦後のハイパーインフレのことを書いた『ハイパーインフレの悪夢』(アダム・ファーガソン著、新潮社)には「ほとんどのドイツ国民は慣れ親しみ信頼している通貨であるマルクを手放そうとしなかった。もうこれでマルクは終わりだという暴落は何度も起こっても、それは変わらなかった。マルクにしがみつく以外に選択肢がなかった者も多い」(31ページ)とあります。
絶えず、円の石ころ化のリスク、すなわち日銀の財務状態に注意を払っておくことは、現時点で大切なことだと思います。
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続きは書籍『Xデイ到来 資産はこう守れ!』をご覧ください。
Xデイ到来 資産はこう守れ!
収まる気配を見せない、円安と物価上昇。「伝説のトレーダー」の異名を持つ経済評論家で、参議院議員もつとめていた藤巻健史さんは「これからが本番」と警鐘を鳴らします。やがて来るかもしれない「日本経済が大混乱に陥る日」に、私たちはどう備えればよいのか? 近刊『Xデイ到来 資産はこう守れ!』より、一部を抜粋します。