為替が不安定になったら国がなんとかしてくれるだろう、と御上への頼りグセがついているかのような日本。しかしこれまでの為替介入は〝円高防止のためのドル買い介入〟。市場がいま期待する「〝円安防止のためのドル売り介入〟とは難度が違う」と藤巻健史さんは言います。話題の書『Xデイ到来 資産はこう守れ』(藤巻健史著/幻冬舎)から一部を抜粋してお届けします。
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円安が進行し始めたとき、市場では為替介入を期待する声が上がりました。ちなみに介入で市場に出てくるのは日銀ですが、為替介入の際の日銀は、単なる手足です。介入は財務省のお金と判断で行います。
私は、介入期待の質問を受けるたびに「ないだろう」と答えています。
私の現役時代、何度か大蔵省(現・財務省)は為替介入を行いました。しかし今までの為替介入は円高防止のためのドル買い介入です。
今回、市場が期待している為替介入は、円安防止のためのドル売り介入です。この方向の違う2つの介入は、財務省にとっての難度が大きく違います。
ドル買い介入は財務省がT-Bill(国庫短期証券)を発行し円を調達して、それを原資にドルを買うのです。円は自国通貨ですから、ほぼ無制限に調達できます。
一方、ドル売り介入は、米国債やドル預金として保有しているドルの外貨準備を原資として行うのです。原資には限りがあります。2022年3月末現在、外貨準備は1兆3560億ドル(約170兆円)ありますが、中には金やIMFリザーブポジションなど減らせない外貨準備も含まれています。それらを除いた外貨準備額が介入の限度です。ないものは売れませんから。その辺を市場に見透かされます。
また自国通貨高は第1章で見たように、インフレ対策の最強の武器です。インフレ抑制(=ドル高が最強武器)が最重要課題の現在の米国が、ドル売り介入を許すとは思えません。
ましてや多少なりとも効果が期待される協調介入など無理です。日本の介入によってドルが弱くなれば、米国のインフレが加速してしまうからです。
また、日本政府は1兆3560億ドルのうち1兆893億ドルを外貨建て証券で運用しています。大部分が米国債です。介入で米国債を相手に渡すわけにはいきませんから、米国債をまずは売却してドルに換えねばなりません。この米国債売却で米国債の値段は下がります(=金利上昇)。その結果、日米金利差拡大で円安/ドル高が進んでしまいます。
ドルを押し下げることを目的とした介入資金調達のための米国債売りが、かえってドル買い要因になってしまうという皮肉な結果が予想されるのです。
このように、ファンダメンタルズに反する介入は効果がないばかりか、かえってドル買いの絶好の場になり円が安くなってしまう可能性がかなりあるのです。ドルの買い場を探している投資家を刺激してしまうことにもなるでしょう。それが介入の過去の歴史です。
為替介入はお化けのように、「出るぞ、出るぞ」とマーケット参加者を怖がらせているときが華(効果がある)で、一度でも使うと、その後の効果は激減。政府・日銀には対抗手段がなくなったとの印象を市場に与えるのがオチなのです。
2022年4月17日の日経新聞には「大規模緩和を進めた結果なのだから、(注:ドル売り介入は)理解されにくいだろう。(中略)為替介入を巡る財務省幹部の歯切れは悪い」と書いてありましたが、今私が述べてきた事情を、財務省幹部の方は十分に理解しているのでしょう。
また4月16日の日経新聞には「ある日銀関係者は『為替防衛のために利上げするなら米国並みに上げないと効果はなく、そのペースで日本が利上げしたら財政が破綻し円安が止まらなくなる』と話す。円安進行は利上げ耐性がなく、袋小路に陥りつつある日本の現状を映している」という記事が載っています。
要は、この日銀関係者の方は「日本には円安を抑え込める手段はない」と告白しているようなものです。ただし、この方は「そのペースで日本が利上げしたら、日銀が一瞬で債務超過となりハイパーインフレを招き、円は紙くず化してしまう」と言ったほうがより的確だったとは思います。
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続きは書籍『Xデイ到来 資産はこう守れ!』をご覧ください。
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Xデイ到来 資産はこう守れ!
収まる気配を見せない、円安と物価上昇。「伝説のトレーダー」の異名を持つ経済評論家で、参議院議員もつとめていた藤巻健史さんは「これからが本番」と警鐘を鳴らします。やがて来るかもしれない「日本経済が大混乱に陥る日」に、私たちはどう備えればよいのか? 近刊『Xデイ到来 資産はこう守れ!』より、一部を抜粋します。