幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
まさきとしか『レッドクローバー』
一方こちらは、現代社会のゆがみをまざまざと突きつけられる傑作ミステリ。
東京・豊洲のバーベキュー場で、ヒ素を使った無差別殺人が発生した。犯人の丸江田は、SNSで知り合い、その日初対面となる富裕層の人々を集めて、そのパーティを主催していた。具体的な動機は語らず、「ざまあみろって思ってます」という供述から、社会への鬱屈した恨みが丸江田を犯行に走らせたとみられていた。
この事件を追う雑誌記者の勝木が思い出したのは、十二年前、北海道の片田舎で起きた赤井家一家殺害事件。助かったのは当時高一だった長女・三葉だけ。供述が二転三転したこともあり、三葉の犯人説も根強かったが、決め手がなく結局迷宮入りしていた。勝木は丸江田と面会、一家殺害事件との関連を問うが、丸江田は「あのときの彼女、いまどこにいるんでしょうね」と謎の言葉を残す。やがて、丸江田には過去に札幌での逮捕歴があることがわかり、二人に接点があるのではと思い至るのだが……。
東京と北海道、過去と現在を行き来しつつ、読者は真相にたどり着く。その過程はとても息苦しい。ようやく真実が像を結ぶとき、この加害者も被害者ももしかしたら自分だったかもしれないと思い至るはずだ。三葉の過去や彼女を取り巻く社会の現実。人間の生々しさ、個としての人間よりも手に負えない「社会」や「集団」の怖さ。
読者はこの小説の深さに恐れおののくに違いない。この小説はすごいぞ!
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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