猫の家の建築家・廣瀬慶二さん渾身のフォトエッセー「へぐりさんちは猫の家」が発売になりました。実際に完成したこの家を見たことがあり、作中にも登場するご友人のリサ・ローゼンバーグさんに、今回はインタビュアーを務めていただき、普段はあまり喋らない廣瀬さんに、この本が完成するまでの裏話などを聞きだしてもらおうという企画です。
■写真は3,000枚くらいバシャバシャって撮りました。
リ)さて、何から話します? まず、私のことを勝手に書いたことに謝罪をしてもらいましょうか? どっかのインチキ外国人みたいに「もう本当にワオ!って感じ」なんて変なリアクションをした覚えは私にはありません。大阪生まれの大阪育ちですから。
広)すみません。本当は誰でも良かったんです。でも外人さんのほうがインパクトがあるからセリフもそれっぽくして、あと通天閣のある浪速区出身っていうのが個人的にツボだったので……。
リ)ぜんぜん謝罪になってない。「誰でも良かった」って、もう本当に最低!って感じ。
広)いや、まぁそうなんですけど。キャットウォークがジグザグ形状だから、猫の滞在時間が長くなるってことを一目で見抜いたのはリサが初めてだったから、えらいなぁと思って。行動学の話につなげるために、必然性があって登場していただきました。
リ)最後の方で「最近、飛べない猫が多いのよね」って言うカメラマンも私のことよね?
なんでわざわざ「場末の居酒屋」とか要らない演出をするわけ? だいたい場末って何よ?
広)前に串カツ食べながら、そんなこと言ってなかったっけ? 2度づけ禁止とか壁にべたべた書いてあるそういう系の店で。
リ)新世界の串カツ屋と場末の居酒屋は違うでしょ? あんた浪速区バカにしてない?
広)いえ。大丈夫です。どうぞ話を先に進めてください。まずは読者としての感想から。
リ) 写真がいいわよね。猫の動きと構図がすごく面白い。いつもの田中さんが撮ったの? そういえば、写真のクレジットが載ってないけど。
広)田中さんは猫アレルギーなので辞退されました。今回はほとんど僕が自分で撮っています。被写体が猫だとプロでもむづかしいんだよ。カメラはもちろんPモード*1で。
リ)今なんて言った? 「むづかしいんだよ」のあと。Pモード? えっ? Pモード?
広)だから、もちPで。
リ)Pモードで撮った写真を写真集にして世に出したわけ? 信じらんない! あんた写真の世界なめてんじゃないの!
広)(さいしょに「写真がいいわよね。」って言ったくせに……)
リ)確かに自分でデザインした空間の中で、よく知っている猫を撮影するわけですから、初めての現場で猫に不慣れなカメラマンが仕事をするよりは、いい写真が撮れたのかもしれません。いいでしょう。そこは納得しました。で、何枚ぐらい撮ったの?
広)3,000枚くらい。バシャバシャっと。
リ)それ、選ぶの大変だったでしょう? すごいね。
広)菊地さん(編集者)が、持っている画像は隠さないで全部よこしなさいって言うから、言葉どおりに64GBのUSBメモリに全部つっこんで渡しました。大変だったと思いますよ。普通は絶対怒ると思うんだよね。いっぺんに同じような写真を3,000枚も渡されたら。でも美人だから怒ってるのかどうかよくわからなくて。美人は損だと思います。怒ってても美人だから。こっちは怒られてる気がしないもん。
(菊地注・美人って言っとけば許されると思ってますね。猫たちが可愛いから怒りを堪えただけです)
リ)えっと、つまり、写真を選ぶのは全部プロの編集者さんに任せていたと。自分は何もやっていないと。
広)ええ。全部もちPの仕事です。あ、今のは、「もちろんプロフェッショナル」の略です。
リ)いっぱいシャッターを切って、たまたまよく撮れていたのを、編集者さんに3,000枚の中から探して頂いたと。そういうことですよね?
広)へい。そのとおりで。もちPはもちPにってやつですよ。
リ)…………。
※1)Pモード(=プログラムオートモード)
一般に1眼レフカメラを使う人は、撮りたい写真のイメージにあわせて、絞り値やシャッタースピードを自分で設定します。例えば、被写体の背景をぼかしたいときには絞り値を小さくしたり、スピード感あふれる残像を見せたい場合にはシャッタースピードをわざと遅くします。Pモードは写真表現に求められる基本的な2つの設定操作を放棄し、カメラにそれらを自動的に決めてもらうものです。一言で言うと「パッととりあえず写ればいいんでしょモード」です。
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