収まる気配を見せない、円安と物価上昇。「伝説のトレーダー」の異名を持つ経済評論家で、参議院議員もつとめていた藤巻健史さんは「これからが本番」と警鐘を鳴らします。やがて来るかもしれない「日本経済が大混乱に陥る日」に、私たちはどう備えればよいのか? 近刊『Xデイ到来 資産はこう守れ!』より、一部を抜粋します。
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為替は経済の「自動安定装置」
今、マスコミはしきりに「円高はエエンだか? 悪いんだか?」と議論しています。黒田日銀総裁は「円安は日本経済にとってよい」と主張し、世論は「円安が進行すれば大変になるから、円安は悪い」と対立しています。
しかし、為替は経済の自動安定装置であり、本来変動すべきものなのです。したがって、自国通貨安がいいか悪いかは、そのときのその国の経済状況によって異なります。
景気が悪いと通貨が弱くなり、国際競争力を高めます。その結果、景気がよくなり通貨高に戻っていく。一方、景気が強すぎる(=インフレになる)と、通貨高になりますが、それが国際競争力を弱め、景気を冷やしインフレを抑制させるのです。
よく日本の政治家は「為替は安定したほうがいい」と言いますが、違います。為替は国力に応じて変動すべきなのです。個別企業は先物、オプション等を使ってリスクヘッジし、衝撃を減らせばいいのです。
日本は近年、国力が弱っていたのに通貨が強いままだったので国際競争力を回復できず、GDPが伸びずに国力を落としてしまったと思っています。
小学生にたとえれば、学力が1程度なのに通信簿に5(最上位)の評価をもらっていたようなもので、学力向上の努力が払われなかったのです。
世界を見ても、国力に比べて通貨が強すぎる南欧、日本の経済は低迷し、逆に国力に比べ通貨の弱かったドイツや中国が大きく発展しました。
したがって、この30年間、日本経済再生の処方箋として、私は「穏やかな円安」を主張していたのです。「実力と同じレベルのときに円安を誘導するのは不可能ですが、実力以上に強すぎる円を国力程度に戻すのには手段がある」と主張していました。
方法は、(1) ドル預金の為替差益の非課税化等の税制改革(日本人は非課税大好きなので)、(2) 日本国債のドル建て発行(少し難しいので昔の拙著を参照してください)、(3) マイナス金利政策等です。
私の提唱するマイナス金利政策は、黒田日銀のマイナス金利政策とは180度異なります。詳しくは終章で述べています。
今の日本で円安が進むのは危険
ただし、今まで述べてきたことは、平時の話です。私は『一ドル二〇〇円で日本経済の夜は明ける』(講談社)という本を2002年1月に出しました。「1ドル=200円になれば、日本経済は復活するぞ」という内容です。
そのときは財政状況がギリギリ、まだ平時と言える状態だったので、そう書きました。「(財政が悪化しているので)薄氷の上を歩くような細い道ではあるが」と断っています。
しかし日本は、その後もお金のばらまきを継続し、財政状態を極端に悪化させてしまいました。その危機先送りのために財政ファイナンスを始めてしまったので、今では日銀が危機的な状態に陥っています。
この状態で円安が起きると物価が上昇しますが、日銀にそれを抑える手段はなく、インフレが止まることなく加速していきます。また、日銀が利上げすれば、日銀の債務超過で、即ハイパーインフレです。
政策的な大チョンボをやってしまった後なので、強力な経済の安定装置である為替が働かなくなってしまったのです。だからこそ今、日本で円安が進むと危険だと私は言っているのです。
円安が日本経済を復活させる唯一の処方箋だった時代を、日本は無為に過ごしてしまったと思っています。それもこれも、ばらまき、放漫財政が元凶だと思います。
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続きは書籍『Xデイ到来 資産はこう守れ!』をご覧ください。
Xデイ到来 資産はこう守れ!
収まる気配を見せない、円安と物価上昇。「伝説のトレーダー」の異名を持つ経済評論家で、参議院議員もつとめていた藤巻健史さんは「これからが本番」と警鐘を鳴らします。やがて来るかもしれない「日本経済が大混乱に陥る日」に、私たちはどう備えればよいのか? 近刊『Xデイ到来 資産はこう守れ!』より、一部を抜粋します。