一日一冊読んでいるという”本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第16回 坂井希久子『市松師匠幕末ろまん 黒髪』
こんにちは。村神様と黒髪様には一抹の不安もなし。アルパカ内田です。
心を揺るがす人間模様に繊細な季節の移ろい。江戸情緒を完璧に再現したシリーズが開幕した。導入部分から20数ページでクライマックスのような衝撃が訪れる。まさに大胆不敵で思わず驚きの声が出た。これはもう胸騒ぎとページをめくる手が止まらない。
真っ直ぐで初々しい主人公・おりん。恵まれた環境で生まれた彼女が三味線で身を立てたいという夢は叶えられるのか。そして惚れ惚れするほど美しき師匠・市松の人知れぬ秘密とは。芸の道を極めようと燃え上がる情熱。ミステリアスな過去にスリリングな師弟関係。一筋縄ではいかない男女の情感も絡み合って、一分の隙も見せない展開もまた見事である。
舞台が幕末動乱期というのもドラマティック。太平の世に止まっていた時の流れが堰を切ったように動き出すさまが如実に感じられ、終盤には歴史的な事件も顔を覗かせる。明日をも知れぬ命を抱きしめて闘う男と女。乱れた世に凜と咲く人情が心地よく、激しくも儚い恋模様の行方もまた心を締めつける。
恋人に去られた女の哀感を存分に震わせる長唄「黒髪」の調べが絶妙にストーリーと溶け合い、読みどころの中でもとりわけこうした「音」に注目だ。
冒頭の三味線のリズムをしっかりと胸に刻みつけ、ラストの素晴らしき余韻まで、思う存分味わってほしい。この中毒性の高さは尋常ではない。すでに続きが気になって仕方ないが、共感の輪を広げながら続刊を待とう。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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