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『山女日記』刊行記念対談 湊かなえ(作家)×神谷浩之(『山と溪谷』編集部)

2016.11.12 公開 ポスト

【再掲】山に登る理由がわからないから本を読む 前編神谷浩之(『山と溪谷』編集部)/湊かなえ(作家)

11月6日より、NHKBSプレミアムで始まった、湊かなえさん原作のドラマ「山女日記~女たちは頂きを目指して~」(全7回)。単行本刊行時には、「山に登る理由」をめぐる対談も行いました。明日11月13日は、第2回の放送です。(構成:小西樹里 撮影:山田薫/対談 柏倉陽介/山)

トンガリロを歩く湊さん

遭難しない山岳小説を書こうと思った

湊かなえさんは20代から登山を始め、しばらく離れていたが、「小説を書くため」に再開した

神谷 山の小説はいろいろと読んできましたが、男性の主人公が命を懸けて山に登って生きる意味を問うとか、バタバタ人が死んでいくとか、そういう話が多いですよね。だから、『山女日記』のような小説は初めてだったので、楽しくておもしろかったです。湊さんが実際に山を歩かれているからこそのリアリティと、湊さんならではの女性の心理描写がマッチして、今までにないかたちの山岳小説になっています。新しいジャンルがここに切り開かれたなと思いました。この小説を書くきっかけをお伺いしたいです。

 大学生のときにサイクリング同好会の仲間と山に登るようになって、社会人になってもしばらく一緒に登っていたんです。でも、結婚してまったく山に行かなくなってしまって。また山に登りたいなと思い、いろんな方にお話していたら、幻冬舎の編集さんが「一緒に登りましょう」と。山の小説を書くなら色々な山に連れて行ってくれると(笑)。じゃあ、ぜひ、ということで山の小説を連載することになりました。山岳小説って遭難がつきものじゃないですか。でも遭難がない山岳小説や、これから山に登ってみたい人がここに登ってみようかな、私でも行けそうかなと思えるような、もっと山に親しめるようなものがあってもいいんじゃないかなと思い、今回、このようなお話にしました。神谷さんがこれまでに読んできた山岳小説には、どんな作品がありますか?

学生時代から山に登り続けている神谷浩之さん

神谷 たった今言ったことと反しますけど……まさに男性がバリバリ山に登る話が好きなんです。夢枕獏さんの『神々の山嶺』とか。

 すばらしいですよね。最近ですけど、とても落ち込むようなことがあったときに改めて読んで本当に救われました。……逃避?(笑) 山に行きたかったのかもしれないです。でも、山の小説はどういう気持ちのときに読むかで感じることがまったく違いますよね。『神々の山嶺』を初めて読んだときは、自分の体力に自信があって、やりたいことは何でも出来る、がんばれば何でも手に入れられると思っていた時期だったので、そんなに響くものがなかったんです。

神谷 出版されたのは、僕が学生の頃なので約20年前(1997年)ですね。

 それに、むしろ主人公が登山のじゃまをする立場じゃないですか。

神谷 深町誠ですか(笑)。

 万能な人の足を引っ張るなよと。羽生丈二も最後には達成感を得られたし夢も叶ったけど、深町がついて行ったせいで危ない目にあって余計な体力も使った。でも、自分がダメな気持ちになっているときに読むと、深町にも寄り添えます(笑)。

 

関連書籍

湊かなえ『残照の頂 続・山女日記』

ここは、再生の場所。 NHK BSプレミアム「山女日記3」原作小説。 幅広い層に支持されたベストセラー、待望の第2弾。「通過したつらい日々は、つらかったと認めればいい。たいへんだったと口に出せばいい。そこを乗り越えた自分を素直にねぎらえばいい。そこから、次の目的地を探せばいい。」後立山連峰 亡き夫に対して後悔を抱く女性と、人生の選択に迷いが生じる会社員。北アルプス表銀座 失踪した仲間と、ともに登る仲間への、特別な思いを胸に秘める音大生。立山・剱岳 娘の夢を応援できない母親と、母を説得したい山岳部の女子大生。武奈ヶ岳・安達太良山 コロナ禍、三〇年ぶりの登山をかつての山仲間と報告し合う女性たち。……日々の思いを噛み締めながら、一歩一歩、山を登る女たち。頂から見える景色は、過去の自分を肯定し、未来へ導いてくれる。

湊かなえ『山女日記』

こんなはずでなかった結婚。捨て去れない華やいだ過去。拭いきれない姉への劣等感。夫から切り出された別離。いつの間にか心が離れた恋人。……真面目に、正直に、懸命に生きてきた。なのに、なぜ? 誰にも言えない思いを抱え、山を登る彼女たちは、やがて自分なりの小さな光を見いだしていく。新しい景色が背中を押してくれる、感動の連作長篇。

湊かなえ『往復書簡』

手紙だからつける嘘。手紙だから許せる罪。手紙だからできる告白。過去の残酷な事件の真相が、手紙のやりとりで明かされる。衝撃の結末と温かい感動が待つ、書簡形式の連作ミステリ。

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『山女日記』刊行記念対談 湊かなえ(作家)×神谷浩之(『山と溪谷』編集部)

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神谷浩之 『山と溪谷』編集部

1975年愛知県生まれ。千葉大学徒歩旅行(ワンダーフォーゲル)部OB。東京ヤングクライマーズクラブ(YCC)所属。山と溪谷社入社後、『ヤマケイJOY』編集部などを経て、現在、『山と溪谷』編集部。『単独行者(アラインゲンガー) 新・加藤文太郎伝』(谷甲州著)、『生還 山岳捜査官・釜谷亮二』(大倉崇裕著)などの編集を担当。

湊かなえ 作家

1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。08年、同作を収録した『告白』でデビュー。12年「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。著書に『少女』『贖罪』『Nのために』『夜行観覧車』『往復書簡』『花の鎖』『境遇』『サファイア』『白ゆき姫殺人事件』『母性』『望郷』『高校入試』『豆の上で眠る』など。

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