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『山女日記』刊行記念対談 湊かなえ(作家)×神谷浩之(『山と溪谷』編集部)

2016.11.13 公開 ポスト

『山女日記』刊行記念対談<br> 湊かなえ(作家)×神谷浩之(「山と溪谷」編集部)

【再掲】登ってから書く、読んでから登る、山のおもしろさ(後編)神谷浩之(『山と溪谷』編集部)/湊かなえ(作家)

11月6日より、NHKBSプレミアムで始まった、湊かなえさん原作のドラマ「山女日記~女たちは頂きを目指して~」(全7回)。単行本刊行時には、「山に登る理由」をめぐる対談も行いました。本日11月13日は、第2回の放送です。(構成:小西樹里 撮影:山田薫/対談 柏倉陽介/山)

トンガリロにて、ガイドのテリーさんと
 

初めて見た「ここからが正念場」の看板

トンガリロ、利尻山のほかに、妙高山、火打山、槍ヶ岳、白馬岳、金時山が登場

神谷 今回、『山女日記』にも出てくる北海道の利尻山とニュージーランドにあるトンガリロに一緒に行かせてもらいました。利尻山は、湊さん原案(『往復書簡』収録「二十年後の宿題」)の映画『北のカナリアたち』のロケ見学で湊さんが礼文島に行かれるということで、配給の東映から山と溪谷社に連絡が入って、湊さんと山に行くという話を受けたんです。実は、かなり前に「ダ・ヴィンチ」という雑誌で湊さん特集の号があったとき、「一緒に山に登る人が誰もいないので、誰か登ってくれませんか」というようなことを書かれていたのを読んで、「ぜひ私が」と編集の方に連絡を取ってメールしてみたんですけど音沙汰がなくて……(笑)。

 すみません……。目の前にあるものを片付けていくのが精一杯の時期があったんです。

嵐のような雨のなか登った利尻山

神谷 それが巡り巡ってやっと来たんだという感じでした。うれしかったです。あの日は軽い嵐でしたよね。僕は初めての山でしたが、雨じゃなくても、かなり厳しい山だなと思いました。1500メートルをひたすら登って下りるというのは、なかなかないです。上に山小屋があって1泊して下りてくるというのはあると思うんですけど、あそこまで急な同じコースを日帰りで登って下りてというのは他にはないですね。

 「ここからが正念場」って書いてありましたもんね。文字で正念場って書いてあるのを見たのは初めてでした(笑)。道幅も狭かったし。

神谷 歩くのも大変で、ちょっと道を外れたら落っこちてしまいそうな感じでしたね。

 神谷さんはさすがだなと思うのが、しんどくなる前に休憩を取ってくださって。しんどいから休憩するとか喉が渇いたから水を飲むというやり方をしていたのに、一歩手前で休憩していたら、次も立ち上がりやすいなあとかわかって安心感がありました。だけど、本当はいちばんいいシーズンで、礼文島やサハリンまで見渡せるはずが……。

雨でも高山植物は間近で楽しむことができた

神谷 映画のロケ地を利尻山の頂上から見に行くという宣伝をするはずが何も見えなかった(笑)。

 映画のキャメラマンの木村大作さん(映画「劔岳 点の記」監督)に「まさかこの嵐の中を登ってるんじゃねえだろうな」と言われるとは思わなかったです(笑)。自分たちだけで行くのだったら、この天気ならやめようと言えるけど、一緒には歩かないけど、いろんな人が関わってくださっているから、警報が出ない限りは行かなきゃみたいな感じでしたね。

神谷 本当に無理だったらやめようかと思っていたんですけど、予報ではよくなりそうな雰囲気だったんですよね。

 でも花が見どころの山なので、晴れていなくても間近で花を楽しめました。あれだけ道が狭かったから、もし晴れていてツアー客がずっと連なっていたら思うように登れなくて大変だったんじゃないかなあ。

神谷 我々とあと1、2パーティでしたね。

 途中の山小屋で引き返していた団体がいたんですけど、インストラクターの方が怖かったです(笑)。たくさんの人を預かっているから大変ですよね。

神谷 何もなくて晴れていて楽しかったというより、何かトラブルとかあったほうが記憶には残りますね。

 神谷さんはたった2回しかご一緒していないとは思えないくらい、すごい仲間って感じがするんです(笑)。

小説にも登場する「エメラルド・レイク」

神谷 その次のトンガリロもよかったですね。私はニュージーランドも海外取材も初めてでしたが、日程が厳しい中、現地のツアー会社の方が本当によくしてくださって。トンガリロクロッシングの岩とクレーターだけじゃなくて森や水も見られて、こんなに自然が豊かなんだとわかったのがすごくよかったです。

 山を登って、森を見て、岩山に行って、川があるところに行って、草原を見て、滝の中に入ってとすごく盛りだくさんでした。現地ガイドのテリーさんは、トンガリロを愛する博識で素敵な人で。テリーさんから教えていただいたエリカという花や野生動物・ポッサムのエピソードなどは小説にも反映しました。神谷さんはそのあとスイスに行かれたんですよね。

神谷 アイガーの北壁を見に。

トンガリロクロッシングは、森も、草原も、壮大な滝もある

 おおー。

神谷 見に行くだけですよ。

 どうでしたか?

神谷 すごいです。街のすぐ目の前にあって、登山列車に乗ったら、アイガーのてっぺんまで行っちゃうんですよ。そこは遊園地みたいになっていて、シアターや氷で出来たオブジェとかがあって、スイスってすごいなあと思いました。

 へえー、行きたいなあ。

神谷 壁の真下くらいのところで泊まったんですけど、見上げたらすぐ壁が見えて。アイガー北壁と言ったら昔から伝説のルートで、いろんな人が本に書かれて映画にもなっているので、それをすぐそこで繰り広げたんだなという感慨深いものがありました。ぜひ行ってみてください。

 私は、テレビ番組の『世界の果てまでイッテQ!』を見て、マレーシアのボルネオのキナバル山もいいなあと思っています。オランウータンが見たい。

関連書籍

湊かなえ『残照の頂 続・山女日記』

ここは、再生の場所。 NHK BSプレミアム「山女日記3」原作小説。 幅広い層に支持されたベストセラー、待望の第2弾。「通過したつらい日々は、つらかったと認めればいい。たいへんだったと口に出せばいい。そこを乗り越えた自分を素直にねぎらえばいい。そこから、次の目的地を探せばいい。」後立山連峰 亡き夫に対して後悔を抱く女性と、人生の選択に迷いが生じる会社員。北アルプス表銀座 失踪した仲間と、ともに登る仲間への、特別な思いを胸に秘める音大生。立山・剱岳 娘の夢を応援できない母親と、母を説得したい山岳部の女子大生。武奈ヶ岳・安達太良山 コロナ禍、三〇年ぶりの登山をかつての山仲間と報告し合う女性たち。……日々の思いを噛み締めながら、一歩一歩、山を登る女たち。頂から見える景色は、過去の自分を肯定し、未来へ導いてくれる。

湊かなえ『山女日記』

こんなはずでなかった結婚。捨て去れない華やいだ過去。拭いきれない姉への劣等感。夫から切り出された別離。いつの間にか心が離れた恋人。……真面目に、正直に、懸命に生きてきた。なのに、なぜ? 誰にも言えない思いを抱え、山を登る彼女たちは、やがて自分なりの小さな光を見いだしていく。新しい景色が背中を押してくれる、感動の連作長篇。

湊かなえ『往復書簡』

手紙だからつける嘘。手紙だから許せる罪。手紙だからできる告白。過去の残酷な事件の真相が、手紙のやりとりで明かされる。衝撃の結末と温かい感動が待つ、書簡形式の連作ミステリ。

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『山女日記』刊行記念対談 湊かなえ(作家)×神谷浩之(『山と溪谷』編集部)

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神谷浩之 『山と溪谷』編集部

1975年愛知県生まれ。千葉大学徒歩旅行(ワンダーフォーゲル)部OB。東京ヤングクライマーズクラブ(YCC)所属。山と溪谷社入社後、『ヤマケイJOY』編集部などを経て、現在、『山と溪谷』編集部。『単独行者(アラインゲンガー) 新・加藤文太郎伝』(谷甲州著)、『生還 山岳捜査官・釜谷亮二』(大倉崇裕著)などの編集を担当。

湊かなえ 作家

1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。08年、同作を収録した『告白』でデビュー。12年「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。著書に『少女』『贖罪』『Nのために』『夜行観覧車』『往復書簡』『花の鎖』『境遇』『サファイア』『白ゆき姫殺人事件』『母性』『望郷』『高校入試』『豆の上で眠る』など。

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