コロナ禍で早期退職の募集が急増している昨今。業績良好な企業の「黒字リストラ」も少なくないといいます。長年、尽くした会社から、もし突然「戦力外通告」を突きつけられたら……あなたならどうしますか? 小林祐児さんの『早期退職時代のサバイバル術』は、そんな大リストラ時代を生き残るための術がつまった一冊。会社にとどまる人も、転職する人も、懐にしておきたい本書から、一部をご紹介します。
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「日本的雇用」のどこが問題か?
さて、国際比較などを通じて、「働かない」問題の真因をクリアにするために日本の雇用の本質要因を見てきました。これまで見てきたことのまとめとして、それらを従業員側の経験(EX:Employee Experience)の面からまとめて記述してみましょう。
(0) 学生時代……偏差値を基準にした(学ぶ内容を基準としない)大学入試と、学んだ内容と紐付かない就職活動
(1) 就職時……卒業と同時に入社する、未経験での間断なき就職
(2) 入社時……スタート地点における幹部候補の「横並びのスタート」
(3) 若年期……職能等級によるゆっくりとした「能力による査定・選抜」と、意欲のシンボルになる長時間労働の慣習
(4) 若手中堅期……何回かの異動による企業内経験・広い人脈の蓄積と、キャリアの計画性の喪失
(5) 若手中堅期……職務内容と関係なく、査定を繰り返し少しずつ年功的に上がっていく処遇
(6) ミドル期……出世の天井が来てモチベーションが下がるが、会社をでてまで計画的にやりたいことは見つからない
(7) シニア期……管理職まで出世した場合も、50代をすぎてポスト・オフや出向などで管理職から離れ、一気に処遇とやる気が落ちる
(8) シニア期……60/65歳の定年を迎え、処遇が大幅に減少。引退モードの気持ちのまま、ゆるく働き続ける
このままでは若者も同じ道を歩むことに
日本では、若手従業員にとっては、大企業から中堅企業まで未経験者でも就職できる間口が大きく開いていることで、学校卒業と入社が同時に起こる「間断なき就職」が実現しています。
勤務地・部署は希望こそ出せますが、入社後に広範囲に配置・職務異動があるために、キャリアを自分で選ぶ権利が半分剥奪されています(逆に言えば、新卒時に配属希望が通っている従業員は、自律的なキャリア意識が高くなっていることがわかっています。後ほど詳しく論じていきます)。
実際にどこまで異動するかどうかは個別性が高いものの、異動主導権が企業にある限り、「キャリアの先が見えない」という状況が長く続きます。専門性を磨きたいと思っても、2~3年後にはその職務についているかわからない状態では特定の職業への教育コストを投じる動機が生まれにくくなります。
また、社内昇進レースにおいては、「同期」という疑似共同体を作りながら切磋琢磨し、小さな昇進差を大きく捉えながらどんぐりの背比べを続けていきます。そこにおいてはオフィスに長く残り、長時間労働しているその姿が上司にとって部下の意欲や「頑張っている」ことのシンボルになっています。
ここまで言えば、もうおわかりでしょう。中高年の「働かない」問題は、こうした職業生活のスタートから規定され、中高年になるまでにその働き方を20年近く続けてきたことによる、「代替なきモチベーションの欠如」なのです。
「働かない」問題の核心は「モチベーションがない」ことではなく、「モチベーションのエンジンが組織内出世に偏ってきた」ことによる「代替物のなさ」のほうにあります。
窓際で暇そうにしている「個人の姿」や現在の「心理」の問題を遥かに超えたところにあるのが「働かない」問題の本質です。当然ながら、処方箋もまた、この深みに届くものでなければほとんど意味がありません。
「目に見えている景色」から離れられない心理還元主義的発想では太刀打ちできませんし、社内の中高年を「妖精さん」などと皮肉に眺めている若者も、この真因が変わらない限り、同じような道を歩むことになります。
「働かないおじさん」問題の本当の問題点は、この人材マネジメントが変わらない限り繰り返されてしまう「組織内再生産」の構造にあるのです。
早期退職時代のサバイバル術
コロナ禍で早期退職の募集が急増している昨今。業績良好な企業の「黒字リストラ」も少なくないといいます。長年、尽くした会社から、もし突然「戦力外通告」を突きつけられたら……あなたならどうしますか? 小林祐児さんの『早期退職時代のサバイバル術』は、そんな大リストラ時代を生き残るための術がつまった一冊。会社にとどまる人も、転職する人も、懐にしておきたい本書から、一部をご紹介します。