コロナ禍で早期退職の募集が急増している昨今。業績良好な企業の「黒字リストラ」も少なくないといいます。長年、尽くした会社から、もし突然「戦力外通告」を突きつけられたら……あなたならどうしますか? 小林祐児さんの『早期退職時代のサバイバル術』は、そんな大リストラ時代を生き残るための術がつまった一冊。会社にとどまる人も、転職する人も、懐にしておきたい本書から、一部をご紹介します。
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若年層に負けてはいない!
本書はここまで、4つの「ない」というネガティブな要素を基軸に据え、その整理とともに議論を進めてきました。その意味で、全体的に後ろ向きな話と感じられた方も多いでしょう。
働く個人に向けた処方箋を描く前に、日本の中高年には能力や経験の側面において若年層にはない大きなポテンシャルがあることもやはり指摘しておかなければなりません。それらの前向きな可能性を、4つの「ない」に対抗して、4つの「ある」として示していきましょう。
まず1つ目の「ある」として、日本の中高年の武器は、個人が持つ知能・能力の高さです。
一般的に、加齢に伴って多くの能力は下がると見られています。腰が痛くなったり、目が悪くなったりと、老化を実感することも多くなっていきます。
しかし海外の縦断研究によると、ほとんどの知能が、60歳すぎくらいまでは高く維持されることが示されています。言語理解のように60代まで長く伸び続けている力もあります。もちろん個人差はありますが、仕事に使う能力の多くは、平均的にガクンと下がるものでもなさそうです。
とりわけ日本の中高年は、世界の中でも知能テストにおいて優秀な成績をおさめています。OECDの国際成人力調査によれば、日本の45~54歳と55~65歳の、読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力のいずれのスキルに関しても、ほとんどの年齢で、OECD平均を上回り、他国に比べて高い水準を維持しています。
身体面も見てみましょう。スポーツ庁の新体力テストの結果を参照すると、50代後半の体力テストの結果はここ20年で顕著に上がってきています。
運動の頻度、食生活の向上、医療の発展などを背景に、こうした身体的な能力の向上傾向は今後も続いていくでしょう。日本人の寿命の長さは世界最高水準ですが、こうした身体面でも大きく伸びていることは、喜ばしいことです。
就業意欲が高い日本の中高年
2つ目の「ある」は、仕事を続ける気力です。何歳まで働き続けたいと思うかを就業者に尋ねると、次図にあるように、APACの就業者(20~69歳男女)の中で比較しても日本は最も長く、平均63.2歳まで働きたいと感じています。
マレーシアやタイなどは平均で50代前半であることを見るとかなりの差がついています。中高年に限定してより細かいデータを見れば、70歳を超える年齢まで働き続けたいと回答した人は、50代で25.1%、60代で41.4%でした。政府が推進する「70歳までの就業」は労働者意識の面でも徐々に浸透してきたようです。
少子高齢化と経済停滞が続く中で、老後の家計のために仕方なく働き続ける、という人も多いことは事実です。しかし、国際的に見て極めて高い中高年の就業意欲は、日本全体としては明るい材料ではあります。
本書で見てきた「働かない」「帰らない」「話さない」「変われない」という4つの問題は、単にどれも個人の能力の限界や低さを示すものではありません。
もちろん個人差はつきものですが、私は、こうしたデータを見ながら、日本の中高年は、働くことへの意欲、教育、健康などの面で、世界でもかなり高いポテンシャルを持っていると感じています。
こうした能力の高い中高年が、人材マネジメントや社会的条件によって活かされていない、前向きに働けない状態になっているというのが、現在の日本の社会経済の課題なのです。
奇しくもこうした人材を抱える日本は、世界的に見ても高齢化が加速しているため、中高年を活躍させることは大きなチャレンジであると同時に、高齢社会の1つの範を示すチャンスだとすら思っています。
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