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漫画家めおと対談

2023.03.28 公開 ポスト

『小説幻冬』同時連載スタート記念!!「ヘレテクの穴」「男のいない女たち」

沖田×華さんと櫻井稔文さんに、同業夫婦の楽しさとモヤモヤについて聞いてみた幻冬舎plus編集部

オムニバスのホラー漫画「男のいない女たち」構想のはじまり

———— ここで『小説幻冬』に同時に連載が始まったお二人の作品それぞれについて、お話をうかがえたらと思います。

まず、櫻井さんのオムニバス・ホラー漫画「男のいない女たち」ですが(第1話「犬ストーカー女」、第2話「山ガールの悲劇」が幻冬舎plusに好評転載中)、ホラーといいつつ、どこか笑えてしまうところがあります。作品の中で笑いの要素を大事にされている部分はあるのでしょうか。

櫻井  はじめ、ホラーを描くつもりはなかったんですよね。昔から自分が好きなのがコワおもしろ系が多いというのはあるんですけど、いまYouTubeで、2chのスレの怖い話があって面白くて見てるんです。そういうのを画にしたら、大きな画も描けるし、インパクトのある怖いシーンも描けるなと。

もともとデビューがエロギャグ・ギャグ漫画家だったので、何描いてもギャグになっちゃうところはあるんですよね。たとえば、ちょっとヤバめの犯罪の漫画を描いても、「櫻井さんが描くとソフトになる」と編集者に言われたことがある。それがまあ欠点であり、長所でもあるのかなと。

なので最初の2本(第1話「犬ストーカー女」と第2話「山ガールの悲劇」)は、とりあえず読み切りで、思い浮かんだのを先に描いていたんです。それで担当の志儀さんと、単行本にしたときのタイトルを相談していて、「『男のいない女たち』にしましょう」と言われて、そこで、独身の女性のちょっとこじらせたホラー漫画に統一すればいいのか、と方向性が見えてきた感じですね。

———— なるほど。出てくる女性たちが個性的ですよね。第1話の犬飼ヨシ子は“(こわ)デキる”女、第2話の主人公松田ユキは普通のかわいい女の子ですが、ユキを崖から突き落とす木下アキコは、かなり強烈……。

身体能力がかなり高い犬飼ヨシ子(左)。第1話「犬ストーカー女」より/主人公にウザい恋愛アドバイスを延々とする重要サブキャラの木下アキコ(右)。第2話「山ガールの悲劇」より

櫻井  うん。でもあれ、男いるんですよね。

———— ユキにはいないのに。こういうパターン、あり得ると思いました。女性同士の会話もある意味リアルで、櫻井さんはどういうところで聞いているのかなあと。

櫻井  まあ、そういった女性っていますよね。一緒にいると、ろくな目に遭わないというか。自分は普段からけっこうひどい目に遭うほうなんですけど。

こないだも、犬の散歩をしてたとき、あの「山ガール〜」に出てきたアキコみたいなうっとうしいおばちゃんが急に近づいてきて、「この犬、何歳?」「何時にいっつも散歩してんの?」とか上から目線で聞いてくるんですよ。どうでもいいじゃないですか。あんたになんの関係あるのよって。適当に流してたんです。

それで、早く別れたいから信号が青になった時、ピノ(愛犬)に、「じゃあ、(おばちゃんに)バイバイって言いな。“バイバイ”」と言って行こうとしたら、そのおばちゃんがものすごいドスのきいた声で俺に怒鳴ったんですよ。「犬がしゃべるか!!」って……。

————(笑)。ネタになる出会いはおありになる。

櫻井  ありますね。嫌な目にね、遭う運命にあるみたいです。

———— めったに出会わないような人に出会ってしまう。

櫻井  そんな人だらけ。生まれてからずっとですよ。普通の人が遭わない嫌な目によく遭うんです。昔、風俗とご当地グルメの取材ものの仕事をやってた時は、日本を5周くらいしてるんですけど、あと5回生まれ変わっても人が行かないような場所に行ったりとかさせられて。

沖田  ほんとひどい目にいっぱい遭ってて(笑)。

———— そうしたご経験が活かされているのでしょうか。作品にはバラエティ豊かな人たちが出てきて、怖い中にも笑いがある。世間の真面目なモノサシから開放される感覚があります。

櫻井  そうですか。でも自分のひどい経験が漫画につながっているのか、つながっていないのかっていうと……意外とつながってないと自分は思ってはいるんですけどね。

「ヘレテクの穴」は、主人公・礼子(のりこ)の生きづらさへの共感から

———— 一方、沖田さんが連載中の「ヘレテクの穴」は、新井素子さんの『二分割幽霊綺譚(にぶんかつゆうれいきたん)』が原作です。主人公は「女性仮性半陰陽(かせいはんいんよう)*」で、中学生まで男として生きてきた俺・礼朗(もとあき)が、医学的には女性だったと判明し、礼子(のりこ)と名前を変えて生活も一遍、これまた不思議な冒険が始まります。

※卵巣組織を持つが、陰核肥大などの男性器様のものを有する

新井素子さんの様々な作品の中から、沖田さんがこちらを選ばれた理由は何だったのでしょうか。

新井素子『二分割幽霊綺譚』(講談社文庫、1986年)。沖田さんが小学生のときに出会ったのは単行本のほう。年季が入ったものをお持ちでした。

沖田   私がこの作品に出会ったのは小学3年生の時なんです。昔、ホラーブームがあって、心霊系の本とか宜保愛子(ぎぼあいこ)とか流行っていた頃、怖い映画や漫画、小説を紹介する特集ページが雑誌にあって。そこで『二分割幽霊綺譚』が短く紹介されていたんですけど、どういう本か中身がよくわからないまま、でも「幽霊が分割する」んだから、ものすごい怖い本だと思っていたんですよ。

読みたくてずっと探してたんですけど、田舎だから、本屋さんに行っても「置いてない」と言われて。子どもなので、電話で問い合わせるという発想もなく、でもこの本、いつか見たいなと思っていて、高校に入った時たまたま図書館で発見して、「これや!!」と興奮して読み始めたら、想像と全然、違ってました。なんで急に砂漠の夢? みたいな感じだったんですよ。

———— 主人公の俺が、砂漠のど真ん中にいて水を求めるシーンから原作は始まりますね。

沖田   でも、スイって入っちゃったんですよね、その本の世界に。というのも私、子どもの時から発達障害で、基本ネガティブなんですけど、それまで読んでた小説や漫画の主人公は、正義感にあふれたり何かしら芯があって、それが魅力的ではあるんですけど、『二分割~』のように、初っ端から「死にたい、死にたい」と思っている主人公に会ったことなかったんです。

———— なるほど。

沖田   それが当時の自分の生きづらさみたいなのとすごいリンクして。礼子(のりこ)はモデルみたいなきれいな女性なのに、心は中学校2年生の男の子のまま、生きていかなきゃいけない。そんな絶望的な状況で、さらに死んでしまう。幽霊になって、しかも真っ二つになっているでしょ。死にたい、死にたいと思っていたら、ほんとうに死んじゃって幽霊になって、死んでみてどうですか、幸せですか、みたいなことを問いかけている話だと思うんですよね。

何度も自分の人生を終わらせようとしたけれどもできなかった礼子に危険が。だがこのあと……。(「ヘレテクの穴」第1話より/『小説幻冬』連載中)

それと異世界に行ったら物語がけっこうすぐ終わっちゃうのがもったいないなと。せっかく来たんだから、もっとめちゃくちゃにならなかったのかなとかいろいろ想像して。

———— イメージを膨らませたいところもあった。

沖田 あと、もともとこのお話は、新井素子さんが高校生の時に見た夢を小説化したもので、そこにもすごい衝撃を受けたんですよね。私は高校生の時に初めて読んだんですけど、「高校生で見た夢を、20歳で、こういうふうに小説として書けるこの人は何者なんだ?」と。同じ人間としてものすごい衝撃を受けた一冊でもあったんです。

それと文章のスタイルですよね。すごい独特。片思いしている先輩の日記を見ているような感じなんですよ。「たまらんよ、俺は、本当にもう。」とか普通につらつら書いてるじゃないですか。近況もものすごく長く書いてて、そういうところに親近感が湧くというか、友達みたいな感じに勝手になっちゃってて。

私は小説だと筒井康隆さんが一番好きなんですけども、新井さんの文章を見た時も、すごく大好きになっちゃって、「これ、漫画にしたら絶対おもしろいのに」とずっと思ってたんですよね。私の前に、くりた陸さんが読み切りで描いてくださっていたんですけど、昭和の頃ですし、当時、彼女は新人で、原作に忠実に描いていらして、私は私で、いまの話として描きたいなと。それで編集者に新井さんご本人と連絡を取ってもらってOKいただけたので、描かせていただいた、と。

———— 連載はまだ3話までですが、今後はもっとSF的な要素とか、ホラー的な要素が出てくるのでしょうか。

沖田  そう、そうです。私と新井素子さんには共通点が一つありまして。猟奇的なものが大好きなんですよ。まして私、元看護師じゃないですか。だからわかるんです。グロテスクなものに反比する美しさというものが。新井素子さんも血液とか大好きなんですよ。なんで好きかというと、きれいだ、って言うんです。たぶんそういう価値観が合ってて、漫画にする時、それをすごく出したいなと思ったんですよ。サラッとじゃなく、ほんとうに人間を解体する、あの描写がどうしても欲しくて。そして最後のハッピーエンドの部分は、私は少し意外だなと思えるところもあるので……。

———— 少女漫画的なやりとりが懐かしくキュンときます。

沖田   原作に昭和の男らしさ、女らしさは出ていて当たり前ですよね。だから令和版にするなら、もうジェンダーレスの時代ですし、「強さ」とか必要ないじゃないですか。個としての生き方、自分自身の生き方とは? というけっこう壮大なテーマになっちゃうと思うんですけど、そういったなかで、第13あかねマンションで、なぜか運命的に出会ってしまったこの4人、みたいなのを、それぞれのバックボーンを入れて描きたいな、と。

———— 登場人物はどこかみな「普通」を飛び越えているところがありますね。

沖田   唯一、「普通」といえるのが3話で出てくる「山科(やましな)さん」かな。ほかにも考えていることはいろいろありますが、SFは初挑戦するジャンルなので、まだ試行錯誤な感じです。新井さんも「自由に」と言ってくださっているのでありがたいのですが、後半の異世界バージョンになると、かなり原作と違って血生臭い感じになっていくとは思います。

あと原作の中に、「生きてさえいればいい」といった話も出てくるのですが、いまだとそこに必ず「正しく」が入っている気がするんです。で、これがおそらく生きづらさの一番の原因なんじゃないかと思っていて……。

———— なるほど。

沖田  といったことも考えつつ、描き進めているところです。

二人それぞれの好きな作品を挙げると……

———— おふたりが『小説幻冬』に同時連載しているので、無理やり結びつけるようで恐縮ですが、どちらの作品も“非日常”で、登場人物は“普通”からはみ出していますし、“女性”が主人公で、いろいろな“今”が詰まっている感じがしておりまして、ご夫婦で作品をスタートするにあたって、何か話しているのかなあとインタビュー前は勝手に想像していたのですが……。

櫻井  全くしてないです。

沖田  各々の作品に対する会話自体ない(笑)。Yahoo!ニュースを見たときは話すね。

———— それで、ごはんは櫻井さんがつくられてて。

沖田  汁ドロボウって言われてる毎日なんですけど(笑)。

櫻井  そういう漫画討論はしたことないですね。

沖田  マンガのネーム考えている時は、お互いの話を全く聞いてないんで。話しても無駄やん、みたいな(笑)。

櫻井  ほかの漫画家夫婦ってどうなんだろうなとは思いますね。自分の作家性を、悩みを、打ち明けたりとかしてるのかな。

沖田  仲悪くなる夫婦の話はたまに聞きますね。同業で女性が売れるとさ、男の人が嫉妬しちゃったりとかして。「その作品つまんない」とか難クセ付けられるようになって病んじゃうとか。そういうのは、うちはないんですよね。あと稼いだら、「お前の金はオレのもの」とかっていうパターンもあるみたいですけど、それもなく。それはすごく良かったなと思ってます。

櫻井  自分は、これまで綱渡りで漫画家やってきて、なんとか食ってきたみたいな感じなんですけど、この人はそういう綱を全然渡ってないよね。

沖田  うん。したことはない。

櫻井  デビューしてからずっと。

沖田  飛び級、飛び級、みたいな。

櫻井  もう(笑)。

沖田  しょうもない(笑)。

櫻井  お互い食うに食えなくて、だったら……

沖田  もっとケンカすごかったと思う。

櫻井  してるんでしょうね。うん。

———— でも沖田さんは櫻井さんと知り合って、櫻井さんに本格的にプロの道を勧められていなかったら、漫画家になられてないですよね。

櫻井  そうだね。

沖田  なってなかったですね。うん。なってない。

沖田×華『蜃気楼家族6』の名シーン。これまで描けば下手クソと言われ続けた絵を、師匠の櫻井さんに「良い絵」と褒められ、何かが灯る。(第40話「私の生きる道」/『蜃気楼家族6』より)

———— そう考えますと、話は舞い戻ってすごい出会いでしたね。では最後に、お互いの好きな作品を教えていただいてよろしいでしょうか。私、以前、沖田さんに『蜃気楼家族』でインタビューさせていただいたとき、櫻井さんの作品ですごく薦められたものがあったんです。

沖田『ハメ忍者猿丸』ね。

櫻井  そんなもの読んじゃダメだよ。

沖田  じゃあ、『かっとばせ!! タマやん』。いいですよ。

————「タマやん」も薦められました。

沖田  もう大、大好き。でも、最近出た『バスタブに乗った兄弟(~地球水没記~)』も大好きだし。あと『絶望の犯島(―100人のブリーフ男と1人の改造ギャル)』は5巻で終わっちゃったんですけど。あれ、マジでおもしろくて。泣けるんですよ。あんだけ笑かして、ブリーフしか出てこないのに(笑)。ちゃんと泣かせるんですよね。あれはいいかな。うん。

櫻井  昔のエロ漫画は読まないでください。恥ずかしい。

沖田  あと『(アホ拳法)トリオ・ザ・はげざんす』ですね。

櫻井  読めたもんじゃないですよ……。毎回3Pで終わるんです。どんな話でも3Pで終わるんです。

沖田  全然、画が違います。昔のやつ。今度貸します。『トリオ・ザ・はげざんす』。

櫻井  いや、自分がね、この人の作品で好きなのは、デビュー作『こんなアホでも幸せになりたい』。最初に単行本化された作品で、これが本人すごい喜んでた。でも単行本になったのに、しばらく俺、放ってて読んでなかったんですよね。ゲッツ板谷さんのウェブで連載してたやつよな。

沖田  そうそうそう。その体験漫画が本になって満足して、次はまた看護師に戻ろうかなとか当時は考えてました。

櫻井  最初はバカバカしい話がずらっと描いてあるんですけど、最後のページに、それも本人から直接、聞いてはいた話でしたが、いじめられっ子だった子ども時代、近所のゴミ山で1人で遊んでいたら、同じように1人で女の子が遊んでて、その子と友達になった話があるんですよ。フィリピーナの子どもで。すごい虐待されている子で。

その子がゴミ山に来なくなって、探し歩いてたら、ある日、その子が家の庭でね、親に怒られて、首から下が庭に埋められてるのを見ちゃって。助けようとしたけど、子どもだから助けられなくて。あとで、その子が死んだっていうのを風のうわさで聞いたっていう。その話をね、漫画にしてるんですよ。それ読んだ時に、俺、漫画見て初めて泣いたんです。

沖田(笑)。

櫻井  俺、40歳で。映画見て泣いたことはあったんですけど。こんなおっさんを泣かせるような漫画をね、こいつは描けるんだと思った時に、すごいなと思って。作家性あるなと思って。あと残りの話は全部バカな話なんですけどね(笑)。で、このラストの話は、『透明なゆりかご』につながっていくんですよ。そういうテイストが。

沖田  でもほんと『透明なゆりかご』は地獄でしたよね……いや、大変だった……。

———— お話が尽きる様子がまったく見えないのですが、このたびは楽しい夫婦対談、どうもありがとうございました。お二人の連載中の作品の続きを、これからも楽しみにしております。

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漫画家めおと対談

「小説幻冬」2月号から新連載を同時スタートさせた沖田×華さんと櫻井稔文さんのご夫婦に、同業夫婦の苦悩と楽しさをうかがいました。気になる新連載「ヘレテクの穴」(沖田さん)、「男のいない女たち」(櫻井さん)のお話も。

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