2022年最も売れた本『80歳の壁』は、「我慢せず好きなことをするのが体にいい」とこれまでの高齢者の健康常識を覆す一冊で、多くの反響をいただきました。では、具体的にはどんなふうにすればいいのか? 食事や運動など具体的な生活習慣について、たくさんご質問をいただく中で生まれたのが、最新刊『80歳の壁[実践編]』です。
がくっと衰える人が多い<80歳の壁>をいかに乗り越えるのか? 食べ方・眠り方・入浴・運動など……、ちょっと意外、でもすぐに取り入れられる具体的な秘訣をつめこんだこの新書より、一部を抜粋してお届けします。
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歯と健康には、“噛み切ろうとしても切れない”関係があります。
1989年、「8020運動」(80歳のときに20本以上の歯を残そうという運動)が始まった頃、その数字に達している高齢者は、全体の10%もいませんでした。それが、2016年には50%を超えました。その間、百寿者が大きく増えたのも、歯の状態がよくなったことがその一因だと、私は見ています。
実際、100歳以上の人にアンケートをとると、100歳を超えてなお、「前歯で肉を噛み切れる」という人が60%もいるのです。そして、59%の人が「奥歯で固いものを噛むことができる」と答えています。
その一方、歯が悪くなると、肉、野菜、海藻といった「体にいいが、歯が悪いと食べにくい」食べ物の摂取量が、10~15%も減るというデータがあります。すると、当然、タンパク質やビタミン、ミネラル類が不足することになります。
ここで、改めて注意を呼びかけたいのは、「年をとると、虫歯が増えやすくなる」ことです。
虫歯は、歯垢中の細菌が糖を材料にして、酸をつくることによって生じます。高齢になると、歯茎が噛せ、エナメル質におおわれていない歯根の露出部分が増えるため、そこから酸におかされ、虫歯が増えることになるのです。
そこで、高齢者が虫歯を防ぐための方法を2つ紹介しておきたいと思います。
まずは、「甘いもの(糖が多いもの)を食べたあとは、すぐに水やお茶を飲む」ことです。直後に歯を磨くのがベストですが、せめて水などを飲んで、糖分を洗い流し、酸ができるのを防ぎましょう。とりわけ、キャラメルなど、歯にくっつきやすく、糖分が歯に残りやすいものは要注意です。
そして、第2には、歯ブラシの選び方です。高齢者は、歯のエナメル質が減っているので、なるべく毛がやわらか目のものを選びましょう。そして、ソフトにやさしく磨くことです。硬い毛の歯ブラシを使い、若いときのようにごしごし磨くと、歯や歯肉をさらに削ってしまいます。
また、高齢者には、ヘッドの小さな歯ブラシが向いています。口を大きく開けるのが難しいため、ヘッドが大きいと、歯の裏まで磨けないためです。また、握力が落ちている人は、柄(ハンドル)が太めのものを選ぶと、しっかり握ることができます。
歯の状態にあった歯ブラシを選び、やさしく丁寧に磨いて、いつまでも肉やたくあん、さきいかなどを自分の歯で噛み切りたいものです。さらに歯間ブラシの併用で歯垢の材料を残さないことも大切です。