2022年最も売れた本『80歳の壁』は、「我慢せず好きなことをするのが体にいい」とこれまでの高齢者の健康常識を覆す一冊で、多くの反響をいただきました。では、具体的にはどんなふうにすればいいのか? 食事や運動など具体的な生活習慣について、たくさんご質問をいただく中で生まれたのが、最新刊『80歳の壁[実践編]』です。
がくっと衰える人が多い<80歳の壁>をいかに乗り越えるのか? 食べ方・眠り方・入浴・運動など……、ちょっと意外、でもすぐに取り入れられる具体的な秘訣をつめこんだこの新書より、一部を抜粋してお届けします。
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「お金を遣う」ことは「脳を使う」ことです。
たとえば、モノを買うときには、商品をよく観察し、他の商品と比較しながら、予算内で最善のモノを選ぶことが必要です。「買う」ことは、観察力や判断力を働かせるクリエイティブな行為なのです。それはむろん、ボケ防止につながります。
そこで、私は、とりわけ高齢男性の方々に、身のまわりのものくらいは「自分で選んで買う」ことをおすすめしています。奥さんまかせにせず、自分の衣服や靴下、下着などを自分で買うことが、脳を眠り込ませないコツなのです。
若い人でも、「やる気が起きない」「何をしていいかわからない」という抑うつ型の人をカウンセリングすると、身のまわりのものを、母親に買ってもらっている人が多いことがわかります。そういう人まかせの状況下では、「自発的に何かをしよう」という意欲が湧きにくいのも当然のことでしょう。
そして、私は、もう一歩進んで「お金をじゃんじゃん遣う」ことをおすすめします。元気に生きるためには、「節約ではなく、浪費を宗とすべし」くらいに、私は思っています。
たとえば、東京にお住まいの人なら、たまには銀座へ行って、帝国ホテルのオールドインペリアルバーあたりで飲んではいかがですか。少なくとも、ラウンジでコーヒーをゆっくり味わい、ケーキくらいは食べてみる。それで2000円ほどですが、そうして「非日常を買う」と、脳はてきめん元気になるのです。
また、資本主義社会では「お客様は神様」です。お金を遣えば、お店の人らがちやほやしてくれ、自己愛を満たすことができます。仕事を引退しても、お客としては生涯現役を貫くことが、感情面からもボケを防止するのです。
ホルモン補充療法や美容医療に、お金を遣うのもおすすめです。保険適用にならないことが多いので、それなりの金額にはなりますが、それで見かけが若返れば、脳も若返ります。
むろん、これらは、懐に多少の余裕があるという条件付きの話ではありますが、子供や孫に遺したところで、いわゆる「争続」の原因になるなど、ろくなことはありません。この世で自分が稼いだお金は、自分で使い切る──それが本当の意味の「子供孝行」であり、「孫孝行」でもあると、私は思うのです。