2022年最も売れた本『80歳の壁』は、「我慢せず好きなことをするのが体にいい」とこれまでの高齢者の健康常識を覆す一冊で、多くの反響をいただきました。では、具体的にはどんなふうにすればいいのか? 食事や運動など具体的な生活習慣について、たくさんご質問をいただく中で生まれたのが、最新刊『80歳の壁[実践編]』です。
がくっと衰える人が多い<80歳の壁>をいかに乗り越えるのか? 食べ方・眠り方・入浴・運動など……、ちょっと意外、でもすぐに取り入れられる具体的な秘訣をつめこんだこの新書より、一部を抜粋してお届けします。
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入浴は、高齢者にとって、諸刃の剣のようなところがあります。うまく入れば、健康寿命を延ばせますが、下手をすると命取りにもなります。
浴室は、高齢者にとって自宅内で「最危険地帯」といえます。交通事故死者の6倍以上の年間約1万9000人もの人が、入浴中に亡くなっていて、その約90%は65歳以上なのです。
有名人にも、入浴中に亡くなった人は少なくなく、野球監督の野村克也さんは、自宅の浴槽で意識を失っているところを発見され、その後、病院で死亡が確認されました。俳優の平幹二郎さんや白川由美さんも、自宅の浴室で倒れているところを発見され、その後、死亡が確認されました。
そうした高齢者の浴室死の大半は、脳卒中と心臓発作が占めています。入浴中に血圧が急上昇したり、急に低下したりするので、それらの疾患を招くのです。とりわけ、熱い湯にいきなりつかると、血圧が30も40も急上昇し、循環器系のバランスが急激に崩れ、大事に至るリスクが高まります。
そこで、高齢者が入浴するには、いくつかの心得が必要になります。
まずは「ぬるめのお湯」に「短時間」入ることです。湯温は38~40度くらいで、入浴時間は10分間程度。その程度であれば、脳血管系、循環器系に大きな負担はかかりません。
そもそも、ストレスを解消するためにも、ぬるめの湯のほうが効果的です。ぬるめの湯は、副交感神経の働きを高め、心身をリラックスさせ、気持ちを落ちつかせてくれるのです。
ただし、ぬるめの湯でも、入浴前の「かけ湯」をお忘れなく。湯温が多少低くても、いきなり全身を浸すと、全身の血管が急速に膨張し、血圧が下がって脳貧血を起こす危険性が高まるからです。
そこで、かけ湯が必要になります。かけ湯のコツは、心臓と遠いところから、少しずつかけていくこと。足先からかけはじめ、股下や腕にかけ、体がお湯の温度に慣れたところで、肩からかけます。そうすると、末端の血管から徐々に拡大するため、心臓にかかる負担が少なくなります。
とりわけ、入浴が危険になるのは、湯温が「42度」を超えた場合です。42度以上の湯につかると、血圧が急上昇し、脈が速まり、心臓と脳に大きな負担がかかるのです。
また、熱い風呂ほど、「湯冷め」しやすいことを知っておきましょう。熱い湯につかったほうが体が温まり、湯冷めしにくいように思えますが、実際には逆のことが起きます。
その理由は、2つあります。ひとつには、熱い湯にはゆっくりつかっていられないことです。そのため、体表面は熱くなっても、体の芯まで温まらないうちに、風呂から上がることになるからです。
もうひとつ理由は、熱い湯に入ると、大量に汗をかくことです。すると、風呂から出たあと、汗が一気に蒸発し、その気化熱によって、体温が奪われ、湯冷めするというわけです。