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ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』×東浩紀『弱いつながり』刊行記念対談

2014.07.31 公開 ポスト

「私たちは、『男と女の違い』をもっと知るべきじゃなかろうか」

第1回 女性は生きるためのルールが複雑すぎる東浩紀/ジェーン・スー

7月24日に『弱いつながり』と『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』を刊行したばかりの東浩紀さんとジェーン・スーさんが「男と女の生き方」について語り合いました。意外な初顔合わせの対話は、お互いを探り合いつつ、始まりました。
(構成:福田フクスケ 撮影:牧野智晃)

 

男は「いつまでも男子」でいたいと思わない

女にまつわる諸問題を笑いと毒を交えて綴るエッセイ

ジェーン・スー(以下“ジェーン”) 今、20代30代の女性と話していて思うのは、彼女たちにはメンター(お手本となる指導者)がいないということ。この先働き続けてもどうなるのかというロールモデルがいなくて不安に思っている人が多いですね。だから、私みたいなもんにも誘蛾灯に引き寄せられるように近づいてくるんですよ、何かの指針になるんじゃないかって。求めてる幸せは人それぞれだから、知らんぞ、責任持てんぞ、と思ってるんですけど(笑)。

東浩紀(以下“東”) 女性は社会的に、若い頃の価値がきわめて高くて、だんだんその価値が下がっていく、ということにされていますよね。知恵も経験もない時期に、“若さ”というすごくレバレッジ(少ない資産で多くの取引を行うこと)の利く“財”を与えられて、しかしそれは確実に減っていく。その先は、価値が落ちていくのをいかに別の力で維持するかに注力しなきゃいけない……というのは、たしかに人生設計の立てようがなくて混乱をきたすと思います。

「新しい欲望」を獲得するために旅に出よ、と説く著者初の人生論

ジェーン その意味をもっと早めに誰かに教えて欲しかったですね。ただ、女性にも一部、若さをレバレッジにできなかった層がいるんです。それは単に美醜の問題であったり、レバレッジすることに抵抗感があったり、自分にはそんな価値がないと思い込んでしまったり……。

 本来レバレッジが利くはずなのに「私には利かない」と思うから苦しいんですよね。そのせいで、堅実な人生設計が立てられないのは、女性の大変むずかしいところだと思います。男性にはそれが感覚的によくわからないんですよ。ジェーンさんの新刊に「いつまで女子でいるのか」という問題が書かれていますが、男性の場合「いつまでも“男子”でいたい」とはあまり思わない。だって、“男子”だったときに全然いい目を見ていないから。

ジェーン そうか。“若く見られたい”という感覚もないんですね。

 男性は基本的に、若いうちは知恵も金も力もなくて、上からバカにされて抑圧されている。それが歳を取るにしたがって、知恵や金や力を手に入れたひとが成功者で、そうでないひとは負け組になるわけです。人生ゲームのルールがとてもシンプルなんですよ。女性は生きるためのルールが複雑すぎて、成功パターンもいろいろだからみんな頭を悩ませている。

ジェーン 武蔵大学の田中俊之先生と対談したときに、いわゆる“女女格差”の話になって、なぜ女性は一枚岩になりづらいのか考えたんです。女性は“結婚するorしない”“子供を作るor作らない”“仕事を続けるor続けない”で、最低でも2×2×2=8パターンの選択肢があって、どれを選ぶかで人生がまったく違ってきてしまう。たくさん選択肢があるように見えて、実は二択の組み合わせなので、「でもあなた働いてないじゃない」「でもあなた子供いるでしょ」という断絶が起きて、お互いを攻撃してしまうんですね。そうなってしまうと、一致団結するのはほぼ無理。

 男性は基本的に、結婚や子供の有無とは無関係なルールで判断されますからね。女性はそこで断絶されてしまうから、「同じ女性だから」ということだけで連帯するしかなくなるんだけど、内実はそれぞれ全然違うから内部分裂してしまうんですね。

ジェーン でも、これからは男性も苦しくなると思いますよ。私はサラリーマン時代、仕事をして稼いでいることが“自分の存在証明”だと思ったことは一度もなくて、その仕事が好きだから“自己実現の一貫”として働いていました。でも、いい仕事がしたい、いいものを作りたい、正義を通したいと思って仕事をしていると、必ず話の通じない男性とぶつかるんですよ。できないことをできると言ったり、他人の手柄を横取りしたり、能力がない奴の責任が糾弾されなかったり……。

 いますね、そういうひと。

ジェーン そういうことがあるたびに、私は「こんな会社いつでも辞めてやる!」という気持ちで食ってかかっていたんですが、やがて「そうか、彼らはこの会社をやめたら人生がアウトになると思っているんだ。いい仕事をすることよりも、この会社にできるだけ長く居続けることのほうが大事なんだ」ということがわかってきた。男性と女性では“お仕事ゲーム”のルールが違うからこんなに揉めていたんだなって、30代でようやく気付いたんです。女性が出産や育児の責任を負わされがちだったり、社会進出がしづらい抑圧の裏返しで、男性にも“一度働きはじめたら、65歳まで一生働き続けて家族を養わなければいけない”のがデフォルトになっているというプレッシャーがある。男性は男性で、相当きついだろうなと思います。

 日本の男性はそう思い込みすぎではありますね。

 

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ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』×東浩紀『弱いつながり』刊行記念対談

7月24日に『弱いつながり』と『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』を刊行したばかりの東浩紀さんとジェーン・スーさんが「男と女の生き方」について語り合いました。意外な初顔合わせの対話は、お互いを探り合いつつ、始まりました。(構成:福田フクスケ 撮影:牧野智晃) 

 

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東浩紀

一九七一年東京都生まれ。作家、思想家。株式会社ゲンロン代表取締役。『思想地図β』編集長。東京大学教養学部教養学科卒、同大学院総合文化研究科博士課程修了。一九九三年「ソルジェニーツィン試論」で批評家としてデビュー。一九九九年『存在論的、郵便的』(新潮社)で第二十一回サントリー学芸賞、二〇一〇年『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)で第二十三回三島由紀夫賞を受賞。他の著書に『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』(以上、講談社現代新書)、『一般意志2.0』(講談社)、「東浩紀アーカイブス」(河出文庫)、『クリュセの魚』(河出書房新社)、『セカイからもっと近くに』(東京創元社)など多数。また、自らが発行人となって『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』『福島第一観光地化計画』「ゲンロン」(以上、ゲンロン)なども刊行。

ジェーン・スー

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家/ラジオパーソナリティー/コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」をはじめとするラジオ番組でパーソナリティーとして活躍中。

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