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ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』×東浩紀『弱いつながり』刊行記念対談

2014.08.07 公開 ポスト

「私たちは、『男と女の違い』をもっと知るべきじゃなかろうか」

第2回 ネットは“第2の建前”を増やしただけだった東浩紀/ジェーン・スー

「人生は“うっかり”と“あきらめ”の連続」だから、「計算してもしょうがない」という意見の一致を見た第1回から、次第に話題はネット論へ。いつのまにかネットは、“持てる者”は“持たざる者”を気遣いすぎる世界になってしまったようです。
(構成:福田フクスケ 撮影:牧野智晃)


ネットは階層を固定化する道具

ジェーン 私は東京生まれ東京育ちなんですが、以前ブログで、東京に幻想を抱いてやってくる地方出身者に対する複雑な感情を書いたら、「地方出身者を疎ましく思うなんて何事だ」という罵詈雑言を、はてなのブコメなどで多数見るハメになりました(笑)。一方で、同じ東京出身者からは、「実は私もそう思ってました」という感想をDMでこっそりもらって、そのとき初めて、これってそんなにアンタッチャブルな話題だったのか、と気付きました(笑)。ネットでは、階層社会の中で“持たざる者”とされる人たちの声はいつだって正義とされて、“持てる者”と判断された人たちは、どんなに全方位に気を遣っても、“不用意な発言”と受け取られて叩かれてしまう。この状況は、正直言ってやっかいだな、と。

対談内で話題になった「地方出身者への複雑な感情」は本書内にも収録されている

 今、ネットでは基本的に、弱者や被害者の立場を取らないと何を言ってもカドが立つし、クリーンで優等生的なことを言わないと叩かれる。その結果、本当の声はネットに上がらなくなってきてしまいました。かつては、世間やマスコミの言うことは“建前”で、ネットに書かれていることが“本音”だったんですが、今は新しく“ネット用の建前”というのができただけなんです。たとえば子供たちの間では、学校での自分と、LINEグループでの自分という2つの建前を使い分けて、それとは別に本音の自分がいるという構造ができた。単に世界が複雑になっただけで、そのぶん時間を取られるからそんなのやめたほうがいいんですよ。

ジェーン リアルな社会でも同じですよね。2人の子供を公立と私立に通わせているお母さんが、それぞれの親御さんたちの前で顔を使い分けているのと同じで、そのチャネルがネットによって増えただけ。

 まったくその通りです。だから、ネットの出現で社会は全然変わっていないんです。ネットでは、ブラック企業批判がわーっと盛り上がりましたが、それによって実際のブラック企業がなくなるかといったら、なくならない。ネットとは別の場所で「あんなの、今どきの若者がたるんでいるだけだ」というのが本音の人たちがたくさんいるからです。ネットは、ブラック企業批判をして盛り上がれる“遊び場”をひとつ生み出しただけ。それ以外、状況は何も変わっていません。

本書のなかで、「ネットは階層や所属先を固定化して、“強い絆”をさらに強める」理由が述べている

ジェーン 東さんが新刊の中で、「ネットは階層や所属先を固定化して、“強い絆”をさらに強めるためのメディアだ」と書かれていたのが印象的でした。たくさんの価値観や情報に触れて、多様性を獲得できるのがネットだったはずなのに、逆に、自分に見えている世界だけをますます強化する方向に進んでしまっている、というのが皮肉ですね。

 ネットに出回っている画像で、80年代の就活生と、現在の就活生を比べたものがあるんですが、昔のほうが髪型も服装もバラバラなんですよね。今は、みんな工場で大量生産されたように同じ格好をしていて、異常な光景に見える。ネットが、同調圧力をむしろ強化するためのツールになってしまっているわけです。

ジェーン 就活生の格好がみんな同じなのは、もはやゲン担ぎに近いですよね。そうしなきゃいけない明確な根拠は誰も知らないけど、「左から靴下履けば受かる」って言われたら、そうしておかないと不安になる。ネットで情報がシェアされるようになって、かえって個人が考えたり発言したりする力が弱くなってしまったような気がします。同調圧力の他にネットがもたらした弊害として、“理由なき自主規制”も増えましたよね。たとえば東京都議会のセクハラやじ問題では、何がいけなかったのか、女性はどこに傷付いたのかという議論が深まらないままに、結局「叩かれたから謝ろう」「やばいからやめておこう」という自主規制のムードだけが周知されてしまった印象があります。

 

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ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』×東浩紀『弱いつながり』刊行記念対談

7月24日に『弱いつながり』と『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』を刊行したばかりの東浩紀さんとジェーン・スーさんが「男と女の生き方」について語り合いました。意外な初顔合わせの対話は、お互いを探り合いつつ、始まりました。(構成:福田フクスケ 撮影:牧野智晃) 

 

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東浩紀

一九七一年東京都生まれ。作家、思想家。株式会社ゲンロン代表取締役。『思想地図β』編集長。東京大学教養学部教養学科卒、同大学院総合文化研究科博士課程修了。一九九三年「ソルジェニーツィン試論」で批評家としてデビュー。一九九九年『存在論的、郵便的』(新潮社)で第二十一回サントリー学芸賞、二〇一〇年『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)で第二十三回三島由紀夫賞を受賞。他の著書に『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』(以上、講談社現代新書)、『一般意志2.0』(講談社)、「東浩紀アーカイブス」(河出文庫)、『クリュセの魚』(河出書房新社)、『セカイからもっと近くに』(東京創元社)など多数。また、自らが発行人となって『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』『福島第一観光地化計画』「ゲンロン」(以上、ゲンロン)なども刊行。

ジェーン・スー

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家/ラジオパーソナリティー/コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」をはじめとするラジオ番組でパーソナリティーとして活躍中。

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