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ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』×東浩紀『弱いつながり』刊行記念対談

2014.08.07 公開 ポスト

「私たちは、『男と女の違い』をもっと知るべきじゃなかろうか」

第2回 ネットは“第2の建前”を増やしただけだった東浩紀/ジェーン・スー

ネットの自分がリアルな自分の首を絞める

 やじ問題については、男性の3分の1以上は、何が本当に問題なのかわかっていないと思います。これも、“ネットの建前”が通用する場所以外では、「過去にあんな経歴や発言をしている女なんだから、言われて当然だ」と思っている男性はたくさんいるでしょう。僕自身、これを言うと「ひとによってはセクハラされていいのか」といった議論になることは当然理解したうえで、それでも「塩村さんがああいうスキャンダルのない人だったらよかったのに」と思ってしまうんです。もしも彼女が、少子化問題について実績のあるエキスパートだったら、男性の受け取り方はまったく違っていたでしょうから。

ジェーン そうか、男性はやっぱりそこを問題にするんですね! 目前の問題以前に、相手の過去の功績や言動で優劣を決め、それを指針にヒエラルキーを作り、そこから判断する。塩村さんはその俎上に上げられていたのだということが今、改めてわかりました。でも、前回も言った通り、勝ち負けでしか生きる価値を判断できない男性は、これからますます生きづらくなっていくような気がします。ネットでコミュニケーションしていて痛感するのは、同世代の男性で自分は“勝ち組”だと自認している人と会話するのは、そう難しくないんですよ。「俺のほうが絶対に勝っている」という前提でいるから、女性が何か言っても受け止める度量がある。でも、“負け組”を自認している男性は、「お前らがいるせいで、俺たちが割を食っているんだ」という被害者意識のせいか、露骨に女性を攻撃対象にしてくる場合もあります。

 そういう男性とのコミュニケーションは大変難しいですよ。格差感覚は相対的なものだから、むかしは自分の周辺の世界で完結してプライドが保たれていた。それがネットに行くと「お前、社会的なランクではけっこうクズのほうだぞ」とか言われてしまって、どんどん不幸になっていく。

ジェーン それこそ、東さんが本の中で書かれていたように、成功や失敗を考えずに“偶然性に身をゆだねる”ことで、勝ち負けに囚われた価値観から抜け出すことができたらいいのに……と思いますね。

 そういう意味では、facebookで幸せアピールとかリア充自慢みたいな写真をアップするのは本当にやめたほうがいいですよ(笑)。あれをやっていると、SNS上でどう見えるかという“ネット上の自分”を物語として完結させるために、現実の行動を変えるようになる。それこそ、自分を不自由にしてしまいます。

ジェーン 人生の主客が逆転してしまっているわけだ。facebookでみんながやっているのは、自分のいいところだけを切り取ってプロデュースするという、“幸福の可視化と定量化”ですよね。これをやめないと、ネットの自分がリアルの自分の首を絞めることになりますね。

 繰り返しになりますが、これも結局、ネットが“第2の建前”の場になっているという話。「世間では言えない本音がここにはある」という建前がネットにはある……というふうに、世界が複雑化してしまっただけなんです。ここ数年で、日本のネットは急速に使えなくなりました。日本だけでなく世界的に見ても、ネットの登場によって私たちの社会が大きく変わると言われていた激変期が終わって、一段落着いたのかもしれません。
(第3回へ続く)

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ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』×東浩紀『弱いつながり』刊行記念対談

7月24日に『弱いつながり』と『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』を刊行したばかりの東浩紀さんとジェーン・スーさんが「男と女の生き方」について語り合いました。意外な初顔合わせの対話は、お互いを探り合いつつ、始まりました。(構成:福田フクスケ 撮影:牧野智晃) 

 

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東浩紀

一九七一年東京都生まれ。作家、思想家。株式会社ゲンロン代表取締役。『思想地図β』編集長。東京大学教養学部教養学科卒、同大学院総合文化研究科博士課程修了。一九九三年「ソルジェニーツィン試論」で批評家としてデビュー。一九九九年『存在論的、郵便的』(新潮社)で第二十一回サントリー学芸賞、二〇一〇年『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)で第二十三回三島由紀夫賞を受賞。他の著書に『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』(以上、講談社現代新書)、『一般意志2.0』(講談社)、「東浩紀アーカイブス」(河出文庫)、『クリュセの魚』(河出書房新社)、『セカイからもっと近くに』(東京創元社)など多数。また、自らが発行人となって『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』『福島第一観光地化計画』「ゲンロン」(以上、ゲンロン)なども刊行。

ジェーン・スー

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家/ラジオパーソナリティー/コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」をはじめとするラジオ番組でパーソナリティーとして活躍中。

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