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世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。

2023.10.16 公開 ポスト

「人生は一度きり」そう気づいたら、まだ間に合う…渋谷のバー店主が痛感する人間の儚さ林伸次

私たちの思い通りにならない人生に寄り添う、『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』は、渋谷で30年近くバーを営む林伸次さんだからこそ描くことができた、人間関係の繊細な機微と儚い時間が流れるショートストーリー集です。林さんが15の小さな物語に託した気持ちをご寄稿くださいました。

現実にリセットボタンはない

ヨーロッパから来た宣教師が織田信長に地球儀を見せて、「地球は丸いんです」って説明したところ、織田信長は、「なるほど。そういうことなんだ」ってすぐに納得したそうなんですね。

この「世界は丸い」って、普段から、水平線を見ていたら船が現れたり消えたりするのを見て知っていると、「ああ。だからなんだ」ってわかる人にはすぐに理解できることなのだそうです。

まあでも、「この世界っていうのはどういう風になっているんだろう」っていうのを意識的に普段から考えているような人じゃなきゃ、すぐには納得できないかもしれないですよね。

ところで僕、中学生くらいの時に、「この世界は僕の頭の中にだけある世界なんだ。父や母や兄も僕の想像の産物で、僕が死んでしまったら、全員その瞬間に消えてしまうに違いない」って気づいて、それを恐る恐る母に言ってしまったところ、「本気でそう思ってるの? 私も幻? ものすごく自己中心的な発想だね」って鼻で笑われた思い出があります。

あとになって本で読んだのですが、そういう風に自分のこの存在って誰かの夢の中なのかもしれないとか、自分が目を閉じるとみんなは存在しないのかもしれないとかって考えてしまうのって思春期によくあることらしいんです。自分の存在に対して不安になって、自分なりに解釈しようとしてしまうのでしょう。
 

(写真:Unsplash/Dzmitry Tselabionak  )

でもどうしてそんなことを自分ひとりで思いついたのか、それが不思議でして、織田信長は普段から「世界ってどういう形なんだろう?」っていう思考回路を持っていて、そこに地球儀っていうものを見せられて、「なるほど。そういうことか」ってなったはずですよね。

僕はどうして自分のこの身体感覚を「幻」のように疑ってしまったのかっていうのを考えてみますと、やっぱりSF小説とかマンガの影響のような気がします。ドラえもんを読んでいると、「のび太くんがもしこちらの人生を選んでいたら」っていう並行世界みたいな話がたくさん出てくるんです。

そういう話を毎日毎日読んでいると、「あれ? もしかして僕のこの人生って?」って不安になってくるのだと思います。

あるいは「ゲーム」の影響も大きい気がしているんです。インベーダーゲームって、僕が小学校高学年のときに流行ったのですが、あの頃から「ゲームオーバー」になっても、自分が一度死んでしまっても、スイッチを入れるともう一回やり直しができるっていう発想が登場したと思うんですね。

そのリセットボタンの発想って、僕ら世代以降の人間の人生観に大きい影響があった気がしていまして、人生って何度もやり直しが出来るんだって思える勇気ももらえたように思います。

これを読んでくれているあなたも、僕と同じこの2023年を生きているから、僕と同じように「この自分の人生っていったい?」って何度か考えたことがあると思うんです。

でも、「この世界の現実」というものの方が圧倒的に力強くて、やっぱり人って死んでしまったらそれで何もかも消えて終わりじゃないですか。

年齢を重ねると、人が亡くなってこの世界から消えていくのを何度も何度も見てしまいますよね。

どうやらやっぱりこの世界はすごく現実的で、死んでしまうと人生は終わりで、今こんな風にスマホをさわったり、美味しいものを食べたり、誰かのことを好きになったりっていうのって、全部消えてなくなってしまいます。

それで、真夜中にぼんやりと、「あれ? 自分ってこの人生で良かったのかな?」って思い直してみたり、「今だとまだ間に合うんじゃないかな」って突然思ったり、「会いたい人には会っておいた方がいい」っていう言葉をSNSで見かけて、「今すぐメッセージ送ろう」って思ったり、「好きな人には好きって伝えておこう」って思ったりします。

ほんと、どうやら僕たちの人生って一度きりじゃないですか。死んでしまったらもうやり直しは出来ないじゃないですか。だったら今のうちに出来ることはやってしまった方がいいって思うんです。

僕、今、54才でして、周りで亡くなる人がどんどん増えているんですね。もちろん彼らは悔いのない人生を生きたと思うのですが、僕はどうなんだろう、あと十年、あるいは数年後に死んだらどうなんだろうって、たまに考えてしまうんです。

そんな風に、「人生は一度きりなんだ」って思ったときに読んで欲しい小説を書いてみました。実際、僕も、この小説が出せて、とりあえずもうこの後死んでも大丈夫って、ホッとしています。もし良ければ読んでみてください。

*   *   *

続きは、『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』をご覧ください。

関連書籍

林伸次『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』

大丈夫。孤独で寂しいのは、みんな同じだよ。 noteで大人気!渋谷のバール・ボッサ店主が描く、 思い通りにならない人生を救う極上のショートストーリー集。 片想いしか知らない。一度しか会えなかった。気持ちはいつも届かない――。 誰もが自分だけの世界で一度きりの人生を生きている……15の小さな物語。 まるでバーに入ったような小説。

林伸次『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』

誰かを強く思った気持ちは、あの時たしかに存在したのに、いつか消えてしまう――。燃え上がった関係が次第に冷め、恋の秋がやってきたと嘆く女性。一年間だけと決めた不倫の恋。女優の卵を好きになった高校時代の届かない恋。学生時代はモテた女性の後悔。何も始まらないまま終わった恋。バーカウンターで語られる、切なさ溢れる恋物語。

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世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。

2023年10月4日発売『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』について

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林伸次

1969年徳島県生まれ。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年にbar bossaをオープンする。2001年、ネット上でBOSSA RECORDをオープン。選曲CD、CDライナー執筆多数。著書に『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか』『バーのマスターは、「おかわり」をすすめない』(ともにDU BOOKS)、『ワイングラスの向こう側』(KADOKAWA)、『大人の条件』『結局、人の悩みは人間関係』(ともに産業編集センター)、『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)などがある。

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