幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
宮田愛萌『あやふやで、不確かな』
一方こちらは、20代前半男女の恋愛を描いた連作短編。言ってしまえば、どこにでもいる人たちの普通の恋愛なのだが、どうにも読む手が止まらない。
社会人3年目の成輝は、親友の伸が彼女と別れたと知り驚く。好きだったのに振ったというが、その理由をうまく説明できない伸。成輝には就活中の彼女がいるが、親友の破局を機に、成輝も自分たちの恋愛の行く末に疑問を持ち始め……。本作で描かれる恋愛にはけっして特別な事情(余命ウン年とか、ジェンダー問題など……)があるわけではない。前述のとおり、どこにでもある恋愛なのだが、この小説の面白さは、十人十色の恋愛を描きつつも、その裏テーマとして、伝えることの難しさやもどかしさを読者に巧みに投げかけているところにある。デートの最後、別れの気配を悟った彼女にその理由を聞かれた成輝も、うまく感情を伝えることができない。そこには好悪の感情以外の思いがあるが、どんな言葉でもうまく伝わらない。人間には言葉があるのに、いや、言葉があるからこそ、気持ちを完璧に伝えるのは難しい、と読者は気づくのだ。
このところ、書店の文芸書コーナーは女性作家を中心に多くの作品が群雄割拠の状態である。そんな激戦区に著者はあやふやでもなければ、不確かでもない、まぎれもない傑作を持って挑んできた。宮田愛萌、おそるべし。この才能の出現を心から喜びたい!
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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