睡眠不足から不眠症、夜ふかし、いびきまで、まさに現代病ともいえる睡眠のトラブル。スタンフォード大学医学部教授・西野精治さんの『スタンフォードの眠れる教室』は、そんなあなたのお悩みを科学的エビデンスをもとに解決へ導いてくれる一冊。睡眠の誤った常識をくつがえし、眠りの研究の最前線がわかる本書から、内容の一部をご紹介します。
窒息しながら眠っているのと同じ
新型コロナに限らず、感染症と睡眠には深い関係があります。
アメリカでは毎年インフルエンザで2万人から6万人が亡くなっており、その対策として、かねて睡眠の重要性が指摘されています。睡眠負債がたまっていたり、睡眠の質が悪かったりすると……。
- (1) 感染リスクが高くなる
- (2) 免疫力が低くなる
- (3) ワクチンを打っても抗体ができにくい
- (4) 感染した場合、回復が遅く、重症化しやすい
これはインフルエンザと睡眠の関係として、よく知られていることでした。
2021年4月、前述したブレインスリープで1万人をオンライン調査したところ、新型コロナ感染者は144人いました。その75.7%が20代、30代の若い人です。
「やはり睡眠負債がたまっているか、睡眠の質が悪いからだろう」
そう思ってより詳しく調べてみると、感染者の35.4%は、睡眠時無呼吸症候群にかかっていることがわかりました。これは驚くべき調査結果でした。感染しなかった人たちの無呼吸の頻度は2.7%で、なんと睡眠時無呼吸症候群の人では13.1倍も新型コロナの感染リスクが高かったのです。
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間、1時間に15回以上(中等度以上)も呼吸が止まる病気です。重症だと1時間に60回も呼吸が止まり、つまり1分ごとに10秒以上、首を絞められながら眠っている状態です。
窒息しかけて眠っているのですから、当然、深い眠りではありません。睡眠の質は悪く、頻繁に覚醒し、日中眠くなります。
高血圧、糖尿病、心筋梗塞や脳梗塞……、さまざまな病気の誘因となり、重症の人が治療しない場合、「およそ4割が8~9年で死亡する」という恐ろしい調査結果もあります。
睡眠時無呼吸症候群の人は、免疫力も下がっていました。
「睡眠時無呼吸症候群の通院患者さんと、一般人との比較で、患者さんでは新型コロナの感染リスクが8倍になっている」と、アメリカでも報告されていますが、私たちの調査は、同じ人口構成において、新型コロナ感染者と非感染者に分けて調査を行っていますので、より現実に近い数値が得られた可能性があります。
若くても、痩せていても、女性でも要注意
オンライン調査の結果を見て、私は愕然としました。
「新型コロナ感染者の70%近くが痩せた若い人で、そのうち4割弱が睡眠時無呼吸症候群だ」
アメリカでは、睡眠時無呼吸症候群は「太った中年男性の病気」とされていました。大きないびきをかくことも特徴的で、軟部組織で気道が圧迫され、呼吸を妨げるためです。
ところが日本人などアジア系の人は、顔が平たく、顎が引っ込んでいる骨格。つまり、圧迫されなくても気道がもともと狭いために、睡眠時無呼吸症候群になりやすいのです。
子どもでも若い人でも女性でも、痩せていても、誰でも睡眠時無呼吸症候群にかかる可能性はあります。
さまざまな病気を引き起こし、新型コロナばかりかインフルエンザにもかかりやすくなりますので、心当たりがある人は睡眠外来で相談してください。
就寝中に鼻や鼻口に治療用マスクを装着し、気道が狭窄しないように機械を使って加圧することでかなり改善されます。
スタンフォードの眠れる教室
睡眠不足から不眠症、夜ふかし、いびきまで、まさに現代病ともいえる睡眠のトラブル。スタンフォード大学医学部教授・西野精治さんの『スタンフォードの眠れる教室』は、そんなあなたのお悩みを科学的エビデンスをもとに解決へ導いてくれる一冊。睡眠の誤った常識をくつがえし、眠りの研究の最前線がわかる本書から、内容の一部をご紹介します。