一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第34回 浜口倫太郎『コイモドリ時をかける文学恋愛譚』
皆さんこんにちは。「鯉のぼり」と「お芋掘り」が気になるアルパカ内田です。
こんなにも興奮しながらページをめくれる作品に出合ったのは一体いつ以来だろうか。『コイモドリ』のテーマは「文学」と「恋愛」だから、まさに本好きにはたまらない一目惚れの一冊だ。
舞台は大正の香り漂う葉山の老舗旅館。風光明媚な場景にまずは目を奪われる。さらには思う存分に喜怒哀楽の感情を弾けさせる登場人物たちのキャラクターも際立っている。主人公・晴渡時生は代々受け継がれたタイムリープの特殊能力を持ち、人一倍惚れっぽい作家志望の若者。弟や妹とのコントのような軽妙な掛け合いや、ナビゲーター役のユーモラスな天使の存在も読みどころのひとつである。
全4話からなる構成も見事だ。『こころ』、『春琴抄』、『蜜柑』、『檸檬』とそれぞれお馴染みの文芸名作が各章のタイトルとなっており、ストーリーとも絶妙に融合をしている。さらに次々と宿を訪れるマドンナたちがまた狂おしいほど美しい。恋にまっしぐらとなる時生は、秘密の得意技を活かして、彼女たちの悩みを解決しハートを射止めることはできるのか? 結末は読んでのお楽しみだが、まるで「令和の寅さん」のような面白さであることだけは伝えておこう。
とにかく文豪たちへのリスペクトと文学愛は半端ではない。読めば誰もが、たたみかける泣き笑いと、溢れる人情の虜になること間違いなし。時空を軽やかに超えた展開に、心がときめく至福の一冊。本書を片手に聖地巡りをしながら、末長いシリーズ化と映像化を期待しよう。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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