幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
清繭子『夢みるかかとにご飯つぶ』
一方、こちらは小説家を目指す女性ライターによるエッセイ。
著者は17年間勤めた出版社を39歳で退職。その理由は「小説家になるため」! ライターをしつつ、小説を書くのだという。在職中に小規模ながら文学賞も獲得してはいたものの、それでもかなり思い切った選択だった。
二人の子どもはめちゃくちゃ可愛い。子育てしながらだって小説は書けるはず、だった。が、なかなか思うようにならなくて、入学式の朝、怒鳴って泣かせてしまい落ち込んだ。文学賞には、何度応募しても選考を通過できない。その上、ある人に「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」と言われて唖然としたことも……。
そんな挫折や失敗や苦い思い出が全然暗い話にならずに、なぜだか面白ネタのように楽しく読めてしまうのが本作の読みどころ。全体を貫く壮大な明るさは著者の人間力のたまものであろう。
多くの人は「ここではない何処かで自分はもっと輝けるはず」と思いつつも、なかなか一歩を踏み出せない。溜息をつきながら昨日と同じ今日を過ごした人もいるはずだ。そんな中、思い切って自分の道を進む著者の挑戦に読者は心打たれる。「清繭子」の小説が店頭に並ぶその日が、今から楽しみでならない。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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