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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

2024.09.18 公開 ポスト

♯54

路面電車(トラム)に乗って 富山編相場英雄

<使用機材>FujifilmX100V,BMW 220i Coupe

〈アイバさん、短編集作らない? 舞台は港町でさ〉

過日、某社のベテラン担当さんからこんなご提案をいただいた。企画の詳細を他社サイトの当欄で披露することはできないが、いつもの社会派っぽい(注:本人は社会派を意識したことは一度もない)筆致ではなく、別の方向性でいこうというオファーだった。

 

目下、数社の納品スケジュールがキチキチのため(もちろんG舎分も含む)、実際に執筆作業に入るのは当分先になるのだが、私の頭の中には〈港町〉というキーワードがしばらく点滅を続けていた。

G舎の新連載第一回の執筆に一区切りついた先月下旬、私は〈港町〉探索に出かけた。過去にいくつも港町に出向いたが、今回は未訪問の地を選んでみた。

訪れたのは、日本海に面した富山市だ。私は新潟県出身で富山はお隣に当たる。だが、古くから県境に〈親不知〉という断崖の難所があるため、両県同士での交流は少ない。ご多分に漏れず、私も北陸自動車道で通過したのみで、実際に街の中に入ったのは初めてだったのだ。

知らない街という要素のほかに、私が同地を選んだのは、路面電車(トラム)が現役で走っている点。かつて郷里では〈新潟交通電車線〉という路線があり、新潟市の親戚宅を訪れる際、燕駅から頻繁に乗り込んだ記憶が鮮明に残っているのだ(同線は廃線に)。

チェックインした直後、私は宿の目の前にある停留所に赴き、行き来するトラムに見入った。新型の二両連結も走っているのだが、注目したのが古いタイプ(鉄成分が限りなくゼロなので型式とかは知らない)、一つ眼のレトロな車両だ。

単眼(ライトのことね)のレトロ車両。雰囲気最高です。
こちらは最新車両。もちろん、東京の交通系電子マネーで乗車代金払えます。
路線は三つ。停留所がたくさんあり、使い勝手最高。
JR富山駅の高架下にも停留所あり。新幹線からノーストレスで乗車可能だ。

富山駅至近の停留所のため、結構な数の人が車両に吸い込まれていく。生活の一部として、レトロな路線が今もしっかり現役で活躍している様は、ガキの頃に乗った新潟のカボチャ電車(俗称=緑と黄色のツートンカラー)を思い起こさせた。

札幌や函館、京都や熊本でも路面電車に乗車したが、ゆっくり走る車両から眺める街や行き交う人たちの様子は、作家のイマジネーションを強く刺激する。もちろん、富山も同様で、循環線の目的の停留所で降車し、紹介してもらった寿司店へと足取り軽く進んだ。

 

富山市は、目の前に富山湾をようする。〈天然の生簀〉とも称され、寿司店が多い。訪れた一軒は、古い商店街の中ほどにあった。

お寿司屋さんのある商店街、ランドマーク。昭和っぽいのが好き。

店構えは、全国どこにでもある商店街の老舗だが、キトキト(富山弁で新鮮)な逸品の数々に、口の卑しさでは誰にも負けない私は一発でノックアウトされた。

白エビ、バイ貝など地元富山湾産のほか、漁が解禁されたばかりの能登産の紅ズワイ蟹は絶品。親方チョイスの地酒が進むのなんの。

一番バッター、富山湾のアジ。タタキでいただく。
能登産紅ズワイ。「とても他人事じゃないから、富山は能登を応援するんだ」。にこやかな親方の顔が引き締まった。
地元のレア純米酒。噂には聞いていたけど、こんなにウマいとは。何合飲んだかはナイショ。
全部富山湾で獲れたオサカナたち。左上段からカツオ→イカ→甘エビ→ヒラメ→アジ 左下段 バイ貝→紅ズワイ→ヒラメ→白エビ→カマス→キトキト、値段はリーズナブル(驚異的に)。

もちろん、私が一軒で宿に帰るはずはない。ご紹介いただいたスナックへと移動し、豪快なママや店のスタッフと飲むのなんの。

もちろん、取材である。楽しむだけではなく、地元の情報もたくさん仕入れた。いや、本当だってば。

富山ビギナーのモノカキに対し、ママは地域ごとの訛りの差、県内各地の漁港の気風、産物の違いを丁寧に教えてくださった。いただいた情報は、脳内のファイルにきっちり記憶させてもらった。

一つだけ残念だったのが、ママ激推しの〈マス寿司〉の老舗が臨時休業だったこと。富山市内にはいくつも専門店があり、酢の加減やシャリの硬軟で、家庭ごとにご贔屓があるのだとか。口の肥えたママが推す店なら間違いないはず。近いうちに富山を再訪せねばなるまい。

トラムに乗って寿司を食いに行く。ああ、贅沢。大人になってよかった。

旅のお供は、この子。諸事情あって営業車を入れ替えたばかり(経緯を書くと当欄で10回分くらいになるので割愛)。基本的に車(バイク)移動が好き(便利だから)。
富山編公開の本日は、アイバの誕生日。日本一落ち着きのない57歳は、こんなおじさんです。お祝いのメッセージより、自作品の売り上げデータの方が好き。

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食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!

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相場英雄

1967年新潟県生まれ。元時事通信社記者。主な著書に『震える牛』(小学館文庫)、『血の轍』、『KID』(ともに幻冬舎文庫)、『トップリーグ』  『トップリーグ2/アフターアワーズ』(ともにハルキ文庫)。近著は『血の雫』(幻冬舎文庫)、『レッドネック』(ハルキ文庫)、『マンモスの抜け殻』(文藝春秋)、『覇王の轍』(小学館)、『心眼』(実業之日本社)、『サドンデス』(幻冬舎)、『イグジット』(小学館文庫)『ゼロ打ち』(角川春樹事務)、『マンモスの抜け殻』(文春文庫)。『フェイク・フィクサー』(小学館ストーリーボックス連載中)、『ブラックスワン』(小説幻冬連載中)。

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