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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

2024.10.18 公開 ポスト

♯55

洒落な街で絶滅危惧種の居酒屋へ 神楽坂編相場英雄

<使用機材>FujifilmX100V,SonyRX100M5

神楽坂という街の名を聞き、皆さんはどんなイメージを抱くだろうか。花街、芸妓、石畳、老舗料亭、毘沙門様、小さなビストロ……。大方こんなところではないだろうか。

冒頭から恐縮だが、最近はたんとこの街への足が遠のいている。正直なことを言えば、三〇年以上神楽坂に通った酔っ払いとしては、小言ばかりなのだ。風情ある街だったのに、大手資本系飲食業の皆さんに侵食され、すっかり観光地化してしまったからだ。

 

数年前、こんなことがあった。とある打ち合わせでお洒落なスペインバルへと案内された。キリリと冷えた白ワインのアテに出されたのが、タパスの代表格ともいえるアヒージョ。しかし、である。肝心のオリーブオイルが沸騰しておらず、味はベタベタ。とても食えたもんじゃない。機嫌が悪くなった私は、打ち合わせを中座してしまった(本当にやる)。

こんなこともあった。居酒屋好きの私を喜ばせようと、とある関係者が路地裏の小さな店へと案内してくれた。

しかし、店に一歩足を踏み入れた瞬間、私は悟ってしまった。古い雰囲気を出そうと、空間プロデューサー的な人たちがわざ店を汚し、ホーローの看板を並べてレトロっぽいひなびた体にしていたのだ。当然、味は……(以下自粛)。

業界の大先輩が教えてくれた渋い割烹は敷地ごと買収され、インバウンド向けのなんちゃって高級和食屋に変身してしまった。ランチが途方もなく安く、ポーションが多くてウマかったビストロも商業ビルになった。

年寄りの小言はこれくらいにしておこう。あちこちに渋くてウマい店があったのに、目抜き通りには資本系の居酒屋やレストランばかり。

だが、この街の懐が深いところは、観光地化した中でも、おじさん好みの居酒屋が健在だということ。こちらは数年前、神楽坂近隣にある出版社の担当さんから教えてもらった一軒だ。

熊本から取り寄せた馬刺しがとんでもなくうまく、福井産の鯖もいただける。そのほかにも焼き物や煮物、そして大将が修行した洋食店のメニューまで揃っている。

熊本産の馬刺し。滅法ウマい。酒がいくらでも飲めてしまう危険な一皿。
北海道産のシシャモ。本物のシシャモ。スーパーで売っている北欧産カペリンとは全く別の食べ物だから注意して。

あえて言おう。お洒落な街(多分に嫌味を含んでいる)の中で、絶滅危惧種の居酒屋なのだ。立地的に出版社がいくつもあることから、編集さんや営業担当者が少なくない。このほか、地元のおじさんたちがいつもワイワイガヤガヤやっている。

ああ、俺もこんなおじさんたちに混じって、違和感なく飲める年齢になったなあ、などと感慨にひたっていると、どんどん酒が進んでしまうという寸法だ。

大将謹製のチーズオムレツ。デミグラスも手作り。毎日食べたいヤツ。
煮込みハンバーグ。肉汁爆弾。もちろん手作り、白いゴハン欲しくなる。
こちらも手作り、マカロニグラタン。アッツアツを火傷しても食うべし。

今回は、店の大将の強い希望でヒントはほとんどなし。常連客のみで繁盛しているので、変な新規客を入れたくないのだ。

先にも触れたが、お品書きはごくごく普通のものばかり。だが、大将の一手間、二手間かけた料理、それに愛想の良い女将と貫禄たっぷりの大女将の接客がこの上なく心地よい〈ザ・居酒屋〉なのだ。

手書きメニューを読むと、ワクワクするおじさんは私だけでしょうか? お値段お手頃。

大昔、駆け出しの記者時代。強面の先輩や取材先のおじさんたちに教えてもらった居酒屋の雰囲気が令和の今も残っている。

絶滅危惧種の居酒屋、私はまだまだ通い続ける。そして観光地化が顕著な神楽坂にあって、声高に叫びたい。プロの酔っ払いが集い、通い続ける居酒屋は永遠に不滅なのだ。

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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!

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相場英雄

1967年新潟県生まれ。元時事通信社記者。主な著書に『震える牛』(小学館文庫)、『血の轍』、『KID』(ともに幻冬舎文庫)、『トップリーグ』  『トップリーグ2/アフターアワーズ』(ともにハルキ文庫)。近著は『血の雫』(幻冬舎文庫)、『レッドネック』(ハルキ文庫)、『マンモスの抜け殻』(文藝春秋)、『覇王の轍』(小学館)、『心眼』(実業之日本社)、『サドンデス』(幻冬舎)、『イグジット』(小学館文庫)『ゼロ打ち』(角川春樹事務)、『マンモスの抜け殻』(文春文庫)。『フェイク・フィクサー』(小学館ストーリーボックス連載中)、『ブラックスワン』(小説幻冬連載中)。

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