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礼はいらないよ

2024.10.23 公開 ポスト

選挙候補者を“車”にたとえて考えた…テクニック自慢、スーパーカー自慢はいらない「あなたに運転する資格はあるのか?」ダースレイダー(ラッパー・トラックメイカー)

プチ鹿島さん、山田恵資さん、ダースレイダー、鈴木エイトさん

自民党と公明党の都合で行われる選挙

 

10月27日が衆議院選挙の投開票日だ。フリーランスとはいえ、公示日から投票日まで結構仕事が入っていた。休めないものばかりだ。石破総理によると、僕に信を問うているらしい。だが、当たり前だが石破内閣はまだ何の仕事もしていない。判断できるとしたら直前まで国政を担っていた岸田内閣だが、岸田さんは自民党総裁戦に出馬せずに辞めてしまった。

報道によれば、岸田前総理は辞める前に10月1日臨時国会招集だけは決めていて、そこからの最速解散が10月27日に行えるよう下準備をしていたという。総裁選では解散時期を巡った議論もあったようだが、実際は誰が総裁になろうが選挙をやるタイミングは決まっていたということだ。

新総裁ですら決定権はなく、総体としての自民党と公明党の都合に基づいて行われる選挙というわけだ。繰り返すが僕だって少しは忙しい。

なんでそんなに急いで選挙をやりたいのか? ただし、支持率が下がりまくった岸田政権のままではなく、新しい総裁を選んだ上で。

今年は頭から赤旗報道と上脇博之教授の調査により発覚した自民党議員の裏金問題があり、さらに若干沈静化していた自民党と統一教会との癒着問題が朝日のスクープにより再燃した。裏金問題に関しては穴だらけの改正政治資金規正法、統一教会問題に関してはお手盛り点検の後の再調査はなし。

この状況を1発で打開するには選挙だ! という理屈なのだろう。選挙で再任されれば禊が済んだことになる、という永田町特有の考え方があるが、僕はそう思ったことはない。選挙はそれこそさまざまな政策のパッケージ、対立候補との比較、人間関係などさまざまな要因が絡んで結果に繋がるもので、抱えた疑惑や問題を雲散霧消させるものではないからだ。

それでもやるというならば、だ。争点をまず”今、選挙をやること”自体に置くことも可能だ。民主制における選挙には主権者の意思表示を代行する機能もある。今回の選挙が先述したように自民党、公明党の都合で行われるならば、選挙の実施に賛成なら自公へ、反対ならばそれ以外に投票する。

もちろん、今、日本社会を取り巻く問題は多い。国際情勢はウクライナ、ガザの戦争を始め緊迫度を増しているし、同盟国である米国の選挙も近い。エネルギー自給率、食料自給率が低い中でのこの国際情勢は自国の危機にも直結する。気候変動はもはや全世界的な大問題だ。国内でも経済は低成長を続け、円安が進み、物価は上がっても賃金は上がらず、少子化対策も一向に進まない。袴田事件という世紀の冤罪事件などから見える司法制度の問題、そして一向に復興が進まない中で水害にも見舞われた能登半島。取り組まなければいけない課題は山積みだ。

だが、こうした課題にそもそも取り組む資格があるのか? 手前勝手な都合で選挙する態度で、その資格があると言えるのか? 裏金問題や統一教会問題を放置したまま次に行く姿勢で大丈夫なのか? いや、それでも今の与党こそが実行力があると考えるのか?

候補たちはそれぞれに立派な政策やら課題への取り組みを並べるかもしれない。僕はこれを車にたとえて考えた。すごいドライブテクニックや持ってるスーパーカー自慢を言うのは良いが、そもそもあなたが運転免許を持っているのか? 運転する資格があるのか? 国の、社会の運転を担当する資格はあるのか? もちろんこの運転免許の例えは与野党問わず、どの候補にも当てはまる。

それでも選挙は祭りだ。そして本来の祭りの主催者は僕ら主権者だ。今回も僕はプチ鹿島さんと一緒に選挙現場に行くことにした。東京9区では公職選挙法違反で停止されていた公民権が6月に復帰したばかりの菅原一秀候補の街宣があった。多くの人が集まる群衆の中に鹿島さんといると、一人の赤ん坊を抱っこした女性が僕らの隣に来た。「ほら、カニを配っていた人だよ」という的確な説明を子供にしてから女性は真剣な眼差しで候補の演説を聞いていた。

ただ、急に群衆の中に連れてこられた不安もあったのだろう、赤ん坊は泣き始めてしまう。隣にいた僕らは変顔を作ったり、キーホルダーにつけていたおもちゃを動かしたりしてその子の注意を引いていると子供は笑顔に戻ってくれた。

演説が終わると母親がわざわざお礼を言いに来てくれた。そこで少し話を聞いた。

「自分のパートナーは毎朝、駅で立っている菅原さんを見ているから良い候補だと言うんです。たしかに地域の活動にもよく参加されているようです。それでも自分で見て、話を聞かないとわからないと思って今日は来ました。他の候補の話も聞いてから決めようと思います」

日本の選挙では多くの候補が街頭に出て自分の考えを述べる。判断材料と選択肢を並べて、僕らが決める。そう、僕たちで決めることが出来る。

関連書籍

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える! 自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。/構造の外に出ろ! それしか選択肢がないと思うから構造が続く。 ならば別の選択肢を思い付け。 「言葉を演奏する」という途方もない選択肢に気付いたヒップホップは「外の選択肢」を示し続ける。 まさに社会のハッキング。 現役ラッパーがアジテートする! ――宮台真司(社会学者) / 混乱こそ当たり前の世の中で「お前は誰だ?」に答えるために"新しい動き"を身につける。 ――植本一子(写真家) / あるものを使い倒せ。 楽器がないなら武器を取れ。進歩と踊る足を止めない為に。 イズムの<差異>より、同じ世界の<裏表>を繋ぐリズムを感じろ。 ――荘子it (Dos Monos) / この本を読み、全ては表裏一体だと気付いた私は向かう"確かな未知へ"。 ――なみちえ(ラッパー) / ヒップホップの教科書はいっぱいある。 でもヒップホップ精神(スピリット)の教科書はこの一冊でいい。 ――都築響一(編集者)

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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