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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

2024.12.18 公開 ポスト

#57

ぶらり一筆書きの旅 房総編相場英雄

<使用機材>Fujifilm X100V,VespaGTS300supertech

最近の当欄で触れた港町編、今回は第三弾である。締め切りを守って原稿を送り、ゲラの類いも全て送り返した十月下旬のとある平日、天候は晴れ。酷暑でバイクでの遠出をほぼ諦めていたので、早朝から自宅を出て、一路房総半島へ向かった。

今年8月に入れ替えた営業車(もちろん中古)。イタリアのベスパGTS300。高速道路も楽ちん、長距離移動もイージー。銚子・外川漁港にて。

なぜ早朝なのか。そこには明確な理由がある。東京湾アクアラインを通って、目指したのは内房の君津市。ここには早朝五時から営業をスタートさせる大好きなラーメン屋さんがあるのだ。

なぜ五時なのかは後述するとして、片道六〇キロあるお店になぜ通うようになったのか。単純にウマいからだ。鶏の出汁が効き、濃口の切れ味鋭い醤油ダレ、分厚いチャシューと店主自ら研究を重ねた自家製麺が醸し出す旨さの虜になり、本業である作家業の始業前(朝型人間なので通常は九時くらい)に赴くようになった。

君津のラーメン屋さん。チャーシューメンは早めに来店しないと早々に売り切れる。東京湾の海苔が最高の風味。
君津のラーメン屋さんの一番人気チャーシューメン。分厚くトロットロのチャーシューが山盛り。クセになる味。
 

さて、なぜ早朝五時なのか。同市には国内有数の規模を誇る製鉄所がある。製鉄所の命ともいえる高炉は、絶対に火を落とすことができない。よって多くのスタッフがシフトを組み、二四時間体制で働いている。要するに、朝番勤務の人は出勤前に、あるいは夜番が終わった人は帰路の途中で絶品のラーメンをいただけるという寸法なのだ。

いつも行列に並んでいる際、製鉄所勤務の方々の話を聞くことができる。地域密着のお店っていいなあ、などと考えながら至極の一杯を待つのだ。

さて、ツーリングへ出かけた日は、ラーメンを完食完汁したあと、房総半島の一番南を目指した。食べ終えた時刻はまだ午前六時すぎ、たっぷりと時間があった。

内房から半島の先端へ、そして外房へとぶらり旅しようという算段だ。当欄でたびたび触れてきた港町を舞台にした小説を綴るため、漁港や工業港の姿をファインダーにおさめ、ときに地元の人たちと言葉を交わしつつ、のんびりと走り続けた。

この日は南端の千倉から鴨川市、勝浦市、御宿町と外房を北上し、九十九里の海岸もゆっくりと堪能した。地域ごとに表情を変える海を愛でつつ、潮風を浴びて走るのは最高の気分転換だ(取材もちゃんとしている)。

勝浦市(外房)のビーチ。サーファーの皆さんがたくさん。〈ロングボードのヒデと呼ばれた昔が懐かしいぜ〉(もちろん大嘘)。
旅のお供は、秋田犬のぬいぐるみ(秋田駅で購入)。もちろん、好感度上げ狙っています。
房総旅のど定番、富津岬にて。早朝なのでほとんど貸し切り状態。

そして最終目的地は半島の東端にある銚子市だ。犬吠埼の近くに外川漁港という小さな町がある。キンメダイの名産地として知られ、とりわけ同地で水揚げされる〈釣りキンメ〉はブランド魚としても有名だ。

港町といえば、新鮮な魚介を食べないわけにはいかない。これまで何度かお邪魔した小さな鮨店があり、今回もお邪魔してブランドキンメをたっぷり堪能させていただいた。

キャプションでも触れているが、決して安価なランチではない。だが、銀座や六本木、麻布界隈の高級店で外川キンメをオーダーしたら、間違いなく一貫一五〇〇円はする(それ以上かも)。

銚子・外川漁港近くの老舗のランチ。一番上の伊達巻は外川名物。甘くてほとんどプリン。漁場から戻った漁師さんたちが疲れを癒すために甘味を欲したのだとか。

ブランド魚が四貫、しかもアカムツ(別名ノドグロ)まで入っているのだ。お値打ちどころか、破格である。店主は地元産の魚介にとりわけこだわりが強いので、サーモンやイクラなど定番のネタはない。

ああ、取材を兼ねてウマいものをたらふく食う。これこそ作家冥利である(遊んでいるわけではない)。

バイク旅の唯一の難点。鮨屋で飲めない。悔しいのでノンアル二本もオーダー。

さて、この日の軌跡を地図上でなぞってみた。千葉県の公認キャラクター、チーバくんと同じシルエットに(当たり前だ)。

実質的に房総半島一筆書きの旅。

房総は安くて美味しい食堂や鮨店が多い。関東近隣の他のエリアと比べても、格段に安いと思う(個人の感想です)。私のように駆け足ではなく、特定のエリア、港町を訪れるのはいかがだろう。

1日で走破した房総半島。良い子はマネしないでね。あちこち寄り道したので、実際には500キロ超え。

(注=チーバくん

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食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!

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相場英雄

1967年新潟県生まれ。元時事通信社記者。主な著書に『震える牛』(小学館文庫)、『血の轍』、『KID』(ともに幻冬舎文庫)、『トップリーグ』  『トップリーグ2/アフターアワーズ』(ともにハルキ文庫)。近著は『血の雫』(幻冬舎文庫)、『レッドネック』(ハルキ文庫)、『マンモスの抜け殻』(文藝春秋)、『覇王の轍』(小学館)、『心眼』(実業之日本社)、『サドンデス』(幻冬舎)、『イグジット』(小学館文庫)『ゼロ打ち』(角川春樹事務)、『マンモスの抜け殻』(文春文庫)。『フェイク・フィクサー』(小学館ストーリーボックス連載中)、『ブラックスワン』(小説幻冬連載中)。

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