ドラマの撮影。
助監督として何度もご一緒していた彼女がメイン監督の作品。監督が佐津川さんとまたご一緒したいと言っていますとお声がけいただき、もちろんもちろん参加させていただきますと、とても楽しみにしていた。
私は2日のみの撮影。
オフィスシーン。
実際の会社をお借りしての撮影。1フロアーに広がったオフィスが現場。まんなかには喫煙所。
最近は喫煙ブースというのだろうか。扉がないけどタバコの匂いはしないというすごい子。
で、とあるカットのテストをしているとき、突然うぃーんと機械音がした。
その喫煙ブースに人が近づくと、換気が始まるようで、ぶおーんと大きな音が鳴ったのだ。
撮影中はもちろん、テスト中も現場では全員が静かにするという暗黙のルールがある。余計な音が入ると、撮り直しになるのだ。
で、テストが終わり、現場ではそこに近づいた人に対してつっこんだり、何やってんですかーっといった具合に茶化したりした。我々は喫煙ブースを背にして芝居をしていたから、実際はよくわからなかったけれど、スタッフのみんなの雰囲気で察したつもりになっていた。本番に向けて準備をして、俳優部はメイクを整えてもらったり。しかし、みんなの準備が終わっても、そのぶおーんの音はまだやまない。
そこでさらにツッコんだりしていたけれど、いわゆる音待ちという、大きな音が落ち着くのを待つ状態になった。
私は現場を和ませようと思ってへらへらと「何待ちー? 笑」と言った。すると現場では笑いが起きたのだが、次の瞬間、廊下の方から「そういうのやめてください! 非常識ですよ!」と声がした。
私はやばい!! ︎録音部さんを怒らせてしまったと思い、顔面蒼白になった。
現場がシーンとなったあと、音がやみ、「はいっ、本番いきまーす!」となった。
私は動揺しつつ、芝居をしなければいけないので平常心を保とうと必死になった。なんとか台詞を言い切ると、安堵感とともに、今度は心臓バクバクが始まった。
で、芝居が終わった瞬間、助監督くんが私のところに来て「やばいやばい。ちょっとこわいよ~笑」っとひそひそ声で言った。私は私をフォローしてくれたんだと思い、「いやー私のせいかな? なんかごめんね。」と言ったのだが、そこから私はもう気が気じゃなくて、いつ謝りにいこうか、プロデューサーさんに一緒に来てもらった方がいいかなぁ、撮影終わってからがいいかなぁ、あぁトイレ行きたいなぁでも録音部さん女子トイレの目の前に居るから、この状態じゃ通れないなぁとか、もう色んなことが頭ぐるぐる。
で、謝罪の言葉も何度も考えた。
「〇〇さん、さっきは失礼なことを言ってしまってすみませんでした。決して録音部さんに対して、音待ちを茶化して何待ちー? と言った訳ではなくて、喫煙ブースの音がなかなか止まらないので、場を和ませようと思って、冗談で言ってしまったんです。でも結果的に、録音部さんに不快な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。そこはちゃんと謝らせてください。」
言葉を入れ替えたり何度も考えた。
1人で怯えながらも謝りに行こうと思ったけれど、ちょうど私を作品に呼んでくれた仲良しの監督が居たので、話してみた。
「ねぇねぇ、録音部さんに謝りに行った方がいいよねぇ?」「え? 何をですか?」「あれ? さっき現場いなかった? 〇〇さん怒らせちゃったの、私が何待ちー? ってふざけて言ったからだよね?」「えっ!?︎全然ちがいますよ!! ︎むしろさっつんさんありがとうの方ですよ!! ︎」「え、だって私が言ったあとすぐに、そういうの非常識ですよって言ったから、私が言ってしまったことが癇に障ったんだと思って」「違う違う違う!! ︎私は〇〇さんの横に座ってたから絶対違う!! ︎さっつんさんに対して言ったんじゃないですよ!! ︎現場の外なら全然いいけど、テスト中なのに現場の喫煙ブースに入ってタバコを吸おうとした人が居たから、あの大きな音がなっちゃって、それで現場を止めるなんて非常識だって言ったんですよ!! ︎」「え、それは知らなかった。うそうそうそ私ずっと心臓バクバクしてもう泣きそうだったんだよ~」
そのあと、私は着替えがあったので衣装部屋に行くと、誤解を解こうと監督と録音部さんがわざわざ来てくれた。
「全く佐津川さんに怒ってないです!! ︎」
「よかったーーー泣。私この歳になって現場でやらかすなんて、現場で怒られるなんて、撮影2日しかないのにみんなとまだ仲良くもなれてない状況でもう自分最悪ってめちゃくちゃ後悔してたんですよ」
「違います違います佐津川さんに言ったんじゃないんです。現場と廊下とラグがあるからきっと何か変なタイミングになっちゃったんです」
無意識に喫煙ブースの横を通ってしまって、換気の音待ちというのが、朝から何回かあって、録音部さんも気持ちが溜まっていたのだそう。もう爆笑しながら握手して、誤解が解けてホッとして。
「でも助監督くんも絶対私が怒られたって思ってますよすぐにフォローしに来てくれたんです」ってことで、助監督くんに話しに行くと膝から崩れ落ち、「なんだーーーーボクが怒られたんだと思ったーーーー」っとまさかの回答。え、私は私が怒られたのを、フォローしてくれたんだと思ってたのに。みんなで爆笑。私も助監督くんも、自分が怒られたと思い込んで、顔面蒼白でしばらく過ごしていた。
タバコを吸いに行った人もちゃんと謝っていたし、もしかしたらテスト中だと気づかなかったとか何か理由があったのかもしれないし、みんなそれぞれの立場と気持ちがあるからこそ、誤解もあるけど、ちゃんと話して解決出来てよかったなぁ。
あとから現場に居た数人に聞いたら、みんな録音部さんは私に言った訳ではないと思っていたらしい。私だけが自分のせいにして、助監督くんだけが助監督くんのせいにしていたようだ。
とんだ勘違い。思い込みって、本当に心を左右するんだなぁ。
そして、色々あるけど、やっぱり現場は面白いと私は思う。色んな人が居て、みんなで共有して、喧嘩したり仲直りしたりも普通にあって。理不尽に一方的に怒鳴るとかは嫌いだけど、怒る正当な理由がある時には怒っていいだろうし、そうなったらちゃんと話して和解して、また撮影頑張ろうってなれればそれでいい。
人と人。話し合うことが、大切ですな。
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いつまで自分でせいいっぱい?
自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。