
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第38回 南杏子『いのちの波止場』

の穴水にある病院の看護実習で「ターミナルケ
ア」について学ぶ。激しい痛みがあるのに、モル
ヒネ使用を拒絶する老婦人。認知症と癌を患
い余命少ない父に胃瘻を強要する息子。両親
の見舞いを頑なに拒む末期癌の息子。そして
麻世が研修の最後に涙と感謝と共にケアするの
は―。
皆さん、こんにちは。波止場を鳩羽と思っていたアルパカ内田です。
読み終えて涙が止まらなかった。確かな死と真正面から向き合うことは、今をどう生きるかという問いにつながる。切実な終末期医療をテーマにした本書は、超高齢化社会の必読書である。ケアをする側、される側。誰にとっても決して目を背けてはならないことで、まさに他人事ではないのだ。
舞台が風光明媚な能登半島・穴水であることにも注目したい。地元の名産、景勝地がなんと見事に物語と溶けあっているか。頭の中に浮かびあがる映像美をぜひ体感してもらいたい。そんな美しき場所も過疎化が進んで活気が失われつつある。昨今の度重なる災害が、その流れに拍車をかけていることも事実だ。この国が抱える地方の問題にも思いを寄せなければならない。
運命には抗えない。しかし命が尽きるその瞬間まで、患者本人、その家族、医療従事者はいったい何ができるのだろう。人の数だけ事情があり、価値観は異なる。生にしがみつくのか、死を潔く受け入れるのか。良かれと思ってしたことが相手を苦しめることもある。延命治療の是非の議論もそうだが、理解し合い、寄り添うことが、本当の幸せにつながるのだ。
人は誰もが確実に死に向かって生きている。だからこそ、少しでも自分らしく最期の瞬間を迎えたい。生まれる場所は選べなくても、人生の最期を過ごす場所は選べることもある。「生と死」の瀬戸際の闘いの日々をリアルに、そして情感もたっぷりに再現した本書は、まさに現役医師にしか伝えられない、血の通ったメッセージに溢れている。読めばきっと、身近な誰かに対して優しくなれる一冊なのだ。

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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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