幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
森沢明夫『桜が散っても』
そしてこちらも感動に包まれる傑作小説。
冒頭、桑畑村という山村で老人の死体が発見される。地元の巡査によって、その男は住民の山川忠彦であることが判明。一部からは「よそ者」「変わり者」と言われていたらしいが、巡査には忠彦の「穏やかで淋しげなまなざし」が印象として残っていた。
そして舞台は一転して過去に。まだ30歳になったばかりの忠彦は釣りが目的で訪ねた桑畑村で、地元の住人の檜山浩之に出会う。同世代の二人はすぐに意気投合し、忠彦は村の自然にも魅了されていく。そんな折、浩之から忠彦の会社が村内でリゾート開発を半ば強引に進めていると知らされる。そして現在。都内に住む還暦をすぎた麻美とその子供たち。苦労しながらも整体院を切り盛りする麻美、歳が離れた男との不倫をする娘、仕事にやりがいを感じられずにいる息子、それぞれの日々……。
2つの時代と場所を縫いながらストーリーは進む。徐々に明らかになる登場人物たちの過去への思いと葛藤。著者の巧みな筆は彼(女)らの心の空白が埋まっていく過程を丁寧に描き切る。長い年月は家族それぞれが抱いた思いを薄めるのではなく、濃くするのだ。
2024年もいよいよ大詰めになった今、こんな目玉作品に出会えた奇跡に感謝したい!
アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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