下町ホスト#23
冷たい風に煽られ指先の感覚がじんわりと薄れてゆく
各所に露出している皮膚がひたすら乾く
過度に摂取したアルコールによって過量に火照っていた幸の薄そうな頬はさっさと青白くなり、まだかろうじて赤みの残る耳の淵が異様に痛む
歩く振動によって上下に揺れる良く働いた臓器はやたらとぬくい
家に着いた私は一目散に銀色の底が深い風呂釜に勢い良くお湯を溜め、一気にスーツを脱ぎ捨てて体を洗わずに飛び込んで心臓の奥まで温めた
そのまま潜って髪の毛を濡らし、適当にシャンプーで洗い、さらに適当に体を洗う
体を冷やさぬように安いバスタオルで水滴を取り除き、小型のドライヤーから出る最低限の熱風で髪の毛を乾かす
半分ほど乾いた所で、先ほどまでの出来事が嘘だったかのように、私の凡庸な顔と鏡越しに目が合った
あまり凝視すりことなく、しっかりと髪の毛を乾かし、さらさらと乾燥している軋む階段を上る
置きっぱなしのベトベトしている携帯電話をウェットティッシュで拭き、残り僅かな力で二つ折りを開く
しかし強烈な睡魔が駆け寄り、視界がぼやけてゆく
そのままどうでもいい夢の中へゆっくり導かれた
暫くして、携帯電話のバイブレーションが三回鳴った
目を擦りながら、細い目で読む
「歌舞伎町いこーぜ おやすみ」
眼鏡ギャルからメールがあった
うん、がんば くらい文字を打った所で、また糞どうでもいい夢の中へ先ほどより深く落ちた
目を覚ますと、思っていたほど気分は悪くなく、体は軽い
携帯電話を開くと、中途半端な画面が待ち受けており、急いで文字を足して、眼鏡ギャルに送信した
数分後、うん と一言だけ返信があったことを確認して、携帯電話を閉じ、充電ケーブルを差し込んだ
多少ガヤガヤしているリビングへ行き、ロクな会話もせず、適当な朝食を取って、小慣れたように支度をはじめる
ネクタイを締めて、スーツのジャケットに袖を通し、少しずつ高鳴り始めた平凡を拒絶する欲求の強い心臓を摩った
高揚を隠しながら、明らかに早すぎる時間に、家族の顔を一切見ずに家を出る
私の量産型の平和な自転車は、堂々と鎮座していたが、触れることなく、闇の深い革靴の音を響かせながら、徒歩であの町へ向かう
向かってくる冷たい風を避けながら、携帯電話を開きメールを確認するとパラパラ男から、オレ昨日大丈夫だったすか?とメールがあった
うん、大丈夫、ありがとう とカチカチと打ち込んで返信をする
だいぶ早歩きで進み、ちょうど中間地点くらいてで、チャリンとベルを鳴らす君から電話がきた
「こんにちはー!シュンくん何してるの?」
「歩いて店の方に向かってます!何かありました?」
「なんか電話しちゃった!出勤早すぎない?」
「なんかアドレナリン?わかんないすけど、じっとしてられなくて、、、」
「そっか 昨日なんかあった?」
「、、、えー」
「あったなー、言いなさい」
「No.1から色々聞きました」
「何を?」
「歌舞伎町のことっす」
「へー、喋ったんだ、あの子」
「、、、」
「おうち来ない?」
「え?」
「まだ時間あるでしょ?」
「家、ですか?」
「うん、嫌?」
「家族いますよね?」
「今日たまたまいないの、息子も」
「、、、」
「いいから早く来て、住所メールで送っておくから、昔の家とは今は違うの」
「、、、はい」
そう言って、プツリと電話が切れた
高揚していた気持ちが、少しずつ黒く染まり始めて、夕陽が鬱陶しく重く沈んだ
「羽」
砂浜に残る足跡追いかけるさざ波のごと止まらぬ息吹
大海をひたすら泳ぐ「楽しんで」鳥が囁き背泳ぎをする
薄紅の羽を休ませ枯れてゆく僕の名前をぶっ刺したまま
一枚のハガキ書き終え大晦日赤いあなたにそっと捧げる
閉じてゆく君の眠たい唇に軽いナイフをゆっくり入れた
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歌舞伎町で待っている君を
歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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